≪3≫世界初が「2つある」NGNの商用サービス
〔1〕BTのNGN商用サービス(21CN)
NGNが以上のような特徴をもつこと、また特に欧州では、ETSI(欧州電気通信標準化機構)の中のTISPANプロジェクトが、ITU-Tに先行して、NGNの標準化を推進していたこともあったため、まず英国のBT(ブリティシュ・テレコム)が先進的にNGNの構築を開始しました。また、フランス・テレコムやドイツ・テレコムなども、固定網と移動網を統合する次世代のFMCの構築を意欲的に推進しています。
2001年当時、6兆円もの負債を抱え経営危機に見舞われていたBTは、経営再建計画の検討を重ねてきました。その結果、2003年から黒字に転換して経営危機を脱出し、2004年6月に、次世代ネットワークを含む21CN(21世紀ネットワーク)計画を策定し、発表しました。この21CNでは、まず、保守費用も含めて高価な既存の電話交換機ベースの電話システムを、経済的なルータによるIPベースのIP電話に切り替え、運用コストを毎年2400億円削減できる見通しをつくりました。2006年11月には、世界初のNGNによるIP電話サービスの提供を南ウェールズのカーディフ近郊で開始しました。しかし、このBTのNGNは、ITU-Tのリリース1に基づくNGNというよりは、既存の交換機をルータに置き換えてIP電話サービスの提供を主目的とするものでした。
〔2〕NTTのNGN商用サービス(フレッツ 光ネクスト)
これに対して、今回提供されるNTTのNGN商用サービスは、NGNリリース1に準拠したサービスになっており、BTのNGNと比べて、IP電話はもとより、映像配信サービスや地上デジタル放送IP再送信サービスなど、よりブロードバンドなサービスを意識したものとなっています。このため、NTTのNGN商用サービスは、ITU-Tの標準化の最高責任者であるマルコム・ジョンソン氏(ITU-T電気通信標準化局長)から、『NGN教科書』にいただいたメッセージでも述べられているように、まさにNGNリリース1に準拠した世界初のNGNサービスといわれています。
このようにNGNについては、ITU-Tで国際標準化されているものの、BTとNTTの違いの例に見られるように、その国の通信に対する規制状況や通信事業者の歴史、保有しているサービスや設備に応じて構築され、必ずしも画一的なシステムやサービスではない柔軟な側面をもっています。日本の場合でも、例えば固定網と移動網の両方の通信設備をもち、サービスを提供しているKDDIは、NGNという用語よりも、ウルトラ3Gという次世代通信基盤の上にFMBC(固定網と移動網と放送の融合)というサービスを提供していくことを目指しており、これを次世代ネットワーク(NGN)と位置づけています。
≪4≫活発化するITベンダや通信機器ベンダの動き
また、NGNでは、サービス/アプリケーションが容易に開発でき、提供しやすいように(サービスの開発に負担がかからないように)、いろいろな仕組み(IMSやSDPなど)が提供され、あるいは検討されています。このため、アルカテル-ルーセントやエリクソン、IBM、HP、シスコシステムズ、ジュニパーネットワークスなどをはじめ、NEC、富士通、日立製作所、OKI、三菱電機など、内外を問わずITベンダや通信機器ベンダは、新しいビジネス・チャンスに対応した取り組みを活発化しています。
例えば、最近では、NECは、NGNに接続するアプリケーションの創出を促進するために、オラクル、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、HP、レッドハット、BEAなどのITベンダ10社と国際的なパートナープログラムを発表(2008年3月25日)し、国際標準化も視野に入れた、日本発のSIPミドルウェア共通API「Kairos」(カイロス)の策定を推進しています。
また、富士通は、同社のマルチキャリア対応の企業向けネットワークサービス「FENICS」(フェニックス)を、ユビキタスに時代に対応できるように機能強化した「FENICSⅡネットワークサービス」とNTT東日本とNTT西日本のNGN「フレッツ 光ネクスト」との相互接続に成功。NTTのNGNと相互接続したサービスの提供を開始したと、2008年3月31日に発表しました。これによって、FENICSⅡを使用しているユーザーは、従来の専用線や「フレッツADSL」、「Bフレッツ」などの拠点に加えて、新しく敷設する「フレッツ 光ネクスト」との拠点間において「FENICS II」が利用可能になりました。