[特集]

NGNによる「通信」「放送」「IT」の融合はじまる!

2008/04/02
(水)
SmartGridニューズレター編集部

2008年3月31日、NTTは光アクセス(FTTH)・ユーザーを対象に、次世代ネットワーク「NGN」(Next Generation Network)の商用サービスを開始し、通信の歴史に新しいページを開きました。サービス・ブランド名は「フレッツ 光ネクスト」であり、現在、停滞気味の通信市場を活性化する新しいビジネス・モデルを創出する可能性もあるところから、その発展の行方が世界から大きな注目を集めています。

今回スタートしたNTTのNGN商用サービスは、サービス内容も料金体系も基本的に従来のフレッツ系サービスを継承しながら、後述するように7kHzの高音質なIP電話や、映画や音楽を配信するコンテンツ・プロバイダ向けサービス「フレッツ・キャスト」などの新サービスなども提供されています。残念ながら、NTTが1年をかけて行ったNGNフィールドトライアルのショールーム(NOTE:NGN Open Trial Exhibition)への来場者のアンケートで、最も人気のあった「地上デジタル放送IP再送信」は、一部の放送局からの同意が得られなかったため、3月31日のサービスに間に合わなかったこともありましたが、順調なスタートとなりました。

三橋昭和(WBB Forum/NGN Forum編集長)
三橋昭和
(WBB Forum/NGN Forum編集長)

≪1≫NGNによる「通信と放送とIT」の3つの分野の融合

この新しいNGN商用サービスが提供されるエリアは、順次、全国に拡大されていきますが、現行のフレッツ系サービス提供エリアまで拡大する2010年頃には、アプリケーションもサービスもいっそう充実し、「通信と放送とIT」の3つの分野(トリプル・フィールド)をダイナミックに融合させ、変革していくことになると考えられます(図1)。


図1 通信と放送そしてITを統合するNGNのイメージ(クリックで拡大)

すなわち、今後、NGNがもつ本来の実力(潜在能力)を発揮するようになれば、

(1)多彩な通信サービスの提供による課金ビジネスが主体となっていく通信分野
(2)地上デジタル放送IP再送信やIPTVなどのサービスを含む放送分野
(3)SaaSなどによる新しい企業システムのインテグレーション(SI)を含むIT分野

において、相互の連携がより密接となって融合してパラダイム・シフトを起こし、NGNによる新しいビジネス・モデルが登場してくることが期待されています。

≪2≫NGNリリース1標準の策定と8つの特徴

〔1〕NGNリリース1標準化の経緯

このNGNは、2000年の初頭からITU-Tという国際標準化機関で標準化の検討が開始されました。具体的には表1に示すように、ITU-T内のNGNワークショップ(2001年)を皮切りに、

(1)JRG-NGN(2003設立)
(2)FGNGN(2004年設立)
(3)NGN-GSI(2006年設立)

などにおける審議を経て、2006年7月にNGNリリース1(第1版)の基本的な標準(勧告)群が策定されたところから、世界の先進的な通信事業者や通信機器メーカー、ITベンダなどが一段とNGNを注目するようになりました。

年  月 ITU-T等でのNGN標準化の審議内容
2001年5月14~25日 ITU-T、SG13(第13研究委員会)の第2回全体会合でNGNの標準化に関する調整役をSG13が担当することを確認
〔http://www.ttc.or.jp/j/info/topics/010713/ITU-T_SG1.pdf〕
2003年7月9~10日 ITU-T、NGNの国際標準化目指してNGNワークショップを開催
〔http://www.itu.int/ITU-T/worksem/ngn/200307.html〕
JRG-NGN(NGNに関する初期的な検討を行うグループ)を設立
2003年9月 欧州のETSI内にTISPANプロジェクトが設置され、3GPPが規定したIMS(IP Multimedia Subsystem)を高速広帯域アクセスに適用した次世代の通信インフラの検討を開始
2004年10月/12月 JRG-NGNが、NGNに関する2つの勧告化を行う
①勧告Y.2001:General overview of NGN(NGNの定義と概要、2004/12)
②勧告Y.2011:General Principle and general reference model for Next Generation Networks(NGNの一般的な原則と参照モデル、2004/10)
〔http://www.ttc.or.jp/j/info/topics/20050420_FGNGN.pdf〕
2004年6月 FGNGN(SG13が親SG)を設立(JRG-NGNを解消)
(先行しているTISPANのNGNリリース1を参照し、ITU-TのNGNリリース1の全体像に関する文書群を完成、FGNGN は2005年12月解散)
〔http://www.ttc.or.jp/j/info/topics/20050420_FGNGN.pdf〕
2005年12月 ETSI/TISPANが、TISPAN NGN リリース1仕様(約60件)を完成
〔http://www.ntt.co.jp/journal/0604/files/jn200604071.pdf〕
2006年1月 NGN-GSIを設立
(FGNGN解散後、SG13を中心に課題をもつSGによるNGN検討会合)
〔http://www.itu.int/ITU-T/ngn/index.html〕
2006年7月 ITU-T、NGN-GSIが、NGNリリース1に関する基本的な勧告群(13件)の勧告化の手続き完了(SG13で勧告化)
〔http://www.itu.int/ITU-T/studygroups/com13/past-results.html〕
2006年7月 FG IPTV(IPTV Focus Group)設立
NGNリリース2の中心的なサービスの一つであるIPTVの集中的審議を開始
http://wbb.forum.impressrd.jp/report/20060904/262
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20071106/495
2007年12月 FG IPTVは、IPTVに関する20個の勧告素案を作成し、解散。IPTV-GSIへ引き継ぐ
http://wbb.forum.impressrd.jp/report/20080117/521
2008年1月 IPTV-GSIを設立(FG IPTVの成果を引き継ぐ)
http://wbb.forum.impressrd.jp/report/20080303/550
今後の勧告化の予定
①2008年5月:IPTVのサービス・シナリオ
         IPTVのQoE(体感品質)要求条件
②2008年9月:IPTVサービス要求条件
         IPTVアーキテクチャ
2008年秋 ITU-Tで、NGNリリース2の勧告化予定

表1 ITU-T、ETSI/TISPANにおける主なNGNの標準化動向

※ 用語解説
ETSI:European Telecommunications Standards Institute、欧州電気通信標準化機構
TISPAN:Telecoms & Internet converged Services & Protocols for Advanced Networks、欧州の電気通信関連の標準化団体であるESTIのプロジェクトの一つ。最近ではNGNの標準化を目指したプロジェクトとして有名(2003年に設立)
JRG-NGN:Joint Rapporteur Group on NGN、NGNに関する初期的な検討を行う専門家の組織
FGNGN:Focus Group on NGN、NGNに焦点を当てて審議する期間限定のグループ
SG13:Study Group 13、ITU-TでNGNのアーキテクチャ等を中心に審議する第13研究委員会
NGN-GSI:NGN Global Standards Initiative、NGNの課題(Question)をもったSG(例:SG11、SG13、SG19等)の合同会合
IPTV-GSI:IP Television Global Standards Initiative、IPTVの課題(Question)をもったSGの合同会合

〔2〕NGNの8つの特徴

NGNは、既存の電話網やインターネットなどのよい部分を取り入れた、通信事業者によって提供されるネットワークですが、その特徴を整理すると次の8項目にまとめることができます(図2)。

(1)オールIP化:インターネットで使用されているIP(Internet Protocol)を全面的に採用した、オールIP化ネットワークであること。すなわち、すべてのメディア(音声、映像、テキストなど)をパケット化して通信することができる、パケット・ベースのネットワークであること
(2)品質保証(QoS):ユーザーが利用するアプリケーションの性質に応じて(音声や映像が途切れたりしないように)、通信品質(QoS:Quality of Service)が保証され、必要な帯域が適切に確保されること
(3)高いセキュリティの保証:「なりすまし」などがないように発信者の認証を行ったり、異常なトラフィックを制限する仕組みなど、セキュリティ機能を備えていること
(4)オープンなインタフェースの提供:オープンなインタフェース(UNI/SNI/NNI)が提供されるため、ISPやコンテンツ・プロバイダやサード・パーティなどが容易にNGN上でビジネスを展開できること
(5)FMCの実現:NGNは、有線(固定通信)と無線(移動通信)を統合するFMCを提供できるネットワーク基盤であること
(6)多彩なサービスの提供:NGN通信事業者から提供されるIP電話やIPTVサービスをはじめ、コンテンツ・プロバイダやISP、サード・パーティなどから、多彩なサービスの提供が可能なこと
(7)多様なアクセス網に接続可能: ADSLやFTTHから3G(第3世代携帯電話)、モバイルWiMAXに至るまで、ユーザーが有線あるいは無線を問わずブロードバンド・アクセス網を自由に選択し、接続できる水平統合型のネットワークであること
(8)新ビジネス・モデル:通信・放送・ITの融合によって、新しいビジネス・モデルを創造できる可能性をもったネットワークであること


図2 オールIPで実現するNGNの世界(クリックで拡大)

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