[スペシャルインタビュー]

【台湾のブロードバンド事情】壮大なM-台湾計画に基づく国際戦略を聞く(その1)

2008/11/04
(火)
SmartGridニューズレター編集部

WiMAX、LTE、光ファイバ(FTTH)など新しいブロードバンドの国際的な波を背景に、これを国家的なビジネス・チャンスにしようと、台湾では国家的プロジェクト「M-台湾計画」が推進されている(MはMobileのM)。すでにパソコンやエレクトロニクス部品の分野で国際的な生産拠点にとなった台湾が、ブロードバンド通信市場においても国際的な生産拠点となり、そのリーダーを目指すのがM-台湾計画である。そのため、台湾をFTTHとWiMAXでブロードバンド・アイランド化し、ブロードバンドの国際的なテストベッドにしようと意欲的な取り組みを展開している。そこで、野村総合研究所(NRI) 台北支店で活躍されている村井 則之氏に、「WiMAXと光ファイバ(FTTH)」の2つを軸に展開する台湾のブロードバンド国際戦略を2回に分けてお聞きした。
今回(第1回)は、M-台湾計画の内容を中心にお話いただいた。
(文中、敬称略、聞き手:インプレスR&D 標準技術編集グループ)

【台湾のブロードバンド事情】壮大なM-台湾計画に基づく国際戦略を聞く(その1)

≪1≫WiMAXを推進するM(モバイル)-台湾計画とは?

■ 今、台湾の意欲的なWiMAXの取り組みが国際的に大きく注目されていますが、台湾におけるWiMAXは、どのような状況なのでしょうか。

村井 最初に、台湾のWiMAXがなぜここまで注目されているのか、その背景として、台湾政府がどのようなICT(情報通信)分野の政策を推進しているか、というところから説明していきましょう。

現在、WiMAXを取り組み主導しているのは、台湾政府の経済部(MOEA:Taiwan Ministry of Economic Affairs、日本の経済産業省に相当)の工業局(IDB:Industry Developmennt Bureau)というところです。この工業局がM-Taiwan(エム台湾。Mobile-Taiwan:モバイル台湾。)という計画(プロジェクト)を主導しています(以降、M-台湾計画という)。

■ M-台湾計画というのは、どのようなものでしょうか。

村井 歴史的に見ますと、図1に示すように、台湾政府は、2008年に向けて国をどのように発展させていくか、その一つとして、まず、台湾のブロードバンドの普及を推進するため、2002年5月に『挑戦(チャレンジ)2008-国家発展6ヵ年計画』(Challenge 2008:the 6-Year National Development Plan)をスタートさせました。


図1 「挑戦2008 国家発展重点計画」(2002年5月に策定)(村井氏の資料を引用)(クリックで拡大)


この『挑戦2008計画』の柱の一つとして日本のe-Japan(電子政府)計画に相当する「e-台湾計画」を発表しましたが、このe-台湾計画は、台湾がアジアにおけるe-リーダーになることを目指して、2007年までに600万以上のブロードバンド加入者を獲得し、e-ソサイエティ(電子化社会)、e-インダストリ(電子産業)、e-ガバメント(電子政府)、e-トランスポーテーション(ITS)の5つを実現することを目標としていました。具体的には、IPv6の導入とその普及、無線LANのインフラ(当時、WiMAXはまだ標準化されていない時期)を普及させ、中小企業向けのブロードバンド・サービスを広く提供する計画でした。

この『挑戦2008-国家発展6ヵ年計画』をサポートするために政府は、図1の右に示すように、国の大型インフラ整備事業として「新十大建設」計画を発表(2003年11月)しますが、この新十大建設計画の中で、先ほどのe-台湾計画を実現するために必要なインフラ整備事業としてM台湾計画が策定され、そのプロジェクトを2005年6月からスタートしました。

■ M-台湾計画は、どのような内容の計画ですか?

村井則之氏〔野村総合研究所 台北支店 資深顧問師(シニアコンサルタント)〕
村井則之氏
〔野村総合研究所 台北支店
資深顧問師(シニアコンサル
タント)〕

村井 M-台湾計画の中身も策定当時と現在では、若干異なるのですが、当時の計画(図2)を申し上げますと、

① ブロードバンド網の整備
② 携帯電話ネットワークと無線LANネットワークの統合によるシームレスな無線ブロードバンド環境の構築
③ アプリケーション・サービスの推進

という3つの目標が設定されていました。


図2 挑戦2008のITインフラをサポートするM台湾計画(村井氏の資料を引用)(クリックで拡大)


①に関しては、5年以内に、全台湾に6000kmのブロードバンド・ネットワークを敷設し、完成時に600万世帯(台湾の全世帯数の約750万世帯の80%)が低価格で100Mbpsのブロードバンドを利用できるようにすることを目標としました。②に関しては、携帯電話網と公衆無線LAN網が融合することで、台湾全土に安価なモバイル・ブロードバンド環境を構築しようという計画となりました。また、③は、2つ目の目的と重複する部分はあるのですが、モバイル・ブロードバンド・ネットワークの需要を加速させるためのコンテンツ開発が目標とされました。

■ M-台湾計画も時代とともに、進化・発展してきているのでしょうね。

村井 その後、計画の具体的な中身については検討がくりかえされましたが、現時点のM-台湾計画中では2つの戦略が明確になってきました。それは、有線のブロードバンドは光ファイバによるFTTHで実現し、無線によるワイヤレス・ブロードバンドはWiMAXで実現するという2つの戦略です。このM-台湾計画の投資額は、5年以内に370億台湾ドル(日本円で約1,200億円)を投資する計画となっています。

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