[スペシャルインタビュー]

ウィルコムの次世代PHS(XGP)戦略を聞く(1):ウィルコムの次世代PHS(XGP)とは?

2008/09/26
(金)
SmartGridニューズレター編集部

次世代ワイヤレス・ブロードバンドとして、WiMAXとともに2.5GHz帯の全国バンドを取得したウィルコムは、2009年4月のサービス開始に向けて、次世代PHS「XGP:eXtended Global Platform」を構築中です。次世代ワイヤレス・ブロードバンドについては、3GPPの「LTE」(Long Term Evolution)の標準化もほぼ完了し、その構築も活発化し、この三つどもえの戦いに大きな注目が集まっています。そこで、ウィルコムの技術分野の最高責任者であり、取締役 執行役員 副社長である近 義起(ちか よしおき)氏に、次世代PHS「XGP」について、そのシステムの特徴や設計コンセプトをはじめ、システム構築の現状からロードマップまでを思う存分語っていただきました。
今回(第1回)は、「ウィルコムの次世代PHS(XGP)とは何か」を中心に語っていただきました。

ウィルコムの次世代PHS(XGP)戦略を聞く(1):ウィルコムの次世代PHS(XGP)とは?

≪1≫1000倍ものブロードバンドをどう実現するか

■ ウィルコムが次世代PHS(XGP:eXtended Global Platform)を開発していると聞きますが、どのようなシステムなのでしょうか。また、どのような動機からなのでしょうか?

近 義起氏(ウィルコム 取締役 執行役員 副社長)
近 義起氏
(ウィルコム 取締役
執行役員 副社長)

 詳しくは後ほどお話するとして、大まかな枠組みとその動機について最初にお話しいたしましょう。説明に入る前に、当社のプロフィールを図1に示します。もともと、なぜ今、次世代PHSを新しく設計しなくてはならないのか、というのは、図2に示すことに尽きるのです。結論から言いますと、ブロードバンドの容量は、携帯電話と比較して大変大きく、約1000倍の容量が必要とされるからです。

具体的には、図2の左側に携帯電話(セルラーフォン)の容量を示しています。仮に、携帯電話を1ヵ月に3時間利用(音声は圧縮技術により8kbpsと仮定)したとすると、

〔8kbps×3時間/月〕÷8ビット(バイト)=約10Mバイト/月

となり、10Mバイト/月の容量が必要になります。

一方、ADSLやFTTHのブロードバンドの場合、平均的なユーザー(加入者)1人当たりが利用する容量は、ADSLで 月に5〜6Gバイト程度、FTTH(光ファイバ)で月に10Gバイト程度の容量を使用しているといわれています。すなわち、平均的なユーザー1人がダウンロードなどに使用する情報量、すなわちブロードバンドの容量(FTTH:10Gバイト/月)は、携帯電話(10Mバイト/月)の1,000倍ぐらいの容量が必要とされるのです(10Gバイト/月÷10Mバイト/月=1000倍)。

さらに、インターネットのトラフィックは毎年20%強の伸びでどんどん増えています。


図1 ウィルコムのプロフィール:2008年8月現在(近氏の資料を編集部にて翻訳)(クリックで拡大)



図2 ブロードバンドの容量はとても大きい(近氏の資料を編集部にて翻訳)(クリックで拡大)


そのようなことを考えると、ざっと考えてワイヤレスでも有線系並みのブロードバンドを実現するには、現在の1,000倍の容量をもつ、ワイヤレス・ブロードバンド・システムをつくる必要があるのです。これが一番の大きなポイントです。だれも言わないことですが、みなさん「速度が速い」と大容量だと思いますけれども、それがワイヤレスの場合はイコールではないのです。電波の場合、周波数の容量は速度とユーザー数の掛け算になっているのです(周波数の容量=伝送速度×収容するユーザー数)。したがって、1人当たりが大きい容量をとれば収容できる(接続できる)人数が減ってしまうのです。そこが一番の問題なのです。一方で、周波数の容量を1,000倍に上げる技術というのはあるのかというと、それは非常に難しいのです。

≪2≫マイクロ・セル方式で100倍以上を実現

■ その容量のところをもう少しわかりやすく、説明していただけますか。

近 義起氏(ウィルコム 取締役 執行役員 副社長)
近 義起氏
(ウィルコム 取締役
執行役員 副社長)

 携帯電話のシステムというのは、図3の1番左に示すように、基本的にはこういうセル(図3の例は4つのセル)をつくって空間を埋めているわけです。基本的に、通常は図の赤いセルで使用している周波数と同じ周波数は、干渉しあうので、他の3つのセルの中では使えないというようになっているわけです。しかし、少し離れたセル(例:図3の0.7に位置している2つの赤いセル)では電波が弱まっているので、同じ周波数を繰り返して使う(再利用する)ことが可能になり、同じ電波が再利用されているのです。少し離れると向こうの電波が小さくなって、こっちの電波が強いからお互いに干渉せずに使えるわけです。こういう繰り返しをやっているのです。何波で繰り返すかは、いろいろ方式によって違うので、数は一概には言えないのです〔注:CDMA(符号分割多元接続)の場合は、符号多重方式なの基本的には周波数(リソース)はどこのセルでも繰り返して使用可能であるが、同一符号はやはり、隣接セルでは利用できない〕。


図3 マイクロ・セルは容量で100倍以上向上する(近氏の資料を編集部にて翻訳)(クリックで拡大)


 そこで、お客さんをたくさん収容しようとする場合、セルが大きい(マクロ・セル)基地局の場合、一定エリア内で1人しか同時に通信できなかった場所でも、セルを半分に分割し、2つの基地局を作れば2人同時通信できるようになります。更にそれぞれを2つに分割すれば4つのセルができるので4人同時通信できるようになるのです。これはシンプルで分り易い原理と思います。

これが、図3のマクロ・セル(セル半径が500m〜2km程度)とマイクロ・セル(セル半径が数十m程度)の基本的な違いです。このほかに、CDMAやOFDMなど最新の技術を使用して容量を多くしたりして、高速化するなどの改善していくことを併せてやるのですが、実は、技術による改善にはある種の限界があるのです。これが通信の基本定理といわれる「シャノンの定理」です。

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