≪1≫置局設計が必要ない!
■ PHSの心臓部でもあるマイクロ・セル方式の基地局は、どのように設置されてきたのでしょうか?
近 義起氏
(ウィルコム 取締役
執行役員 副社長)
近 マイクロ・セルによる高密度なPHSシステムでは、これまで技術的にはやはり干渉などを含めて多くの問題もありました。これを乗り越える技術はそう簡単ではなありません。少なくともマイクロ・セルつくりサービスを提供したことがある人はPHS事業者だけしかいないため、技術的な課題やノウハウはPHS事業者にだけ蓄積されているのです。我々もお恥ずかしながら1995年の開業のときは、干渉問題から電波を止めたときもありました。また、TDD(時分割複信)のシステムで干渉を抑制しながら、これだけの基地局密度でサービス行うというのは、いろいろな技術ノウハウが要るのです。さらに、運用ノウハウも蓄積してきました。
また、マイクロ・セルがこれだけの高密度で設置されるようになりますと、マクロ・セルのように厳密に置局設計をするというようなことは、普通できません。このため、設置できるところはどこでも基地局を設置していくことになります。図14の図説には「置局設計はフリー」と書いてありますけれども、このようにマイクロ・セルでは置局設計をしなくてもいいのです。したほうがいいのですけが、しなくても問題が発生しないのです。また、使用環境に応じて自ら指向性を適応化するスマート・アンテナ(Smart Antenna)は、TDD方式で一番力を発揮しますが、当社では1997年からスマート・アンテナを導入していますのでもう10年のノウハウが蓄積されています。
このスマート・アンテナ技術は、干渉を抑圧する技術ですが、ラボではシミュレーションしにくいうえに、干渉の実態というのはなかなかわかりにくいのです。
ですから、干渉をなくすために考えられたスマート・アンテナ(アダプティブ・アレイ・アンテナとも言う)とよく言われますけれども、「教科書に書いてあるアダプティブ・アレイ」と「10年もの実戦を経験してきたアダプティブ・アレイ」があるのです。それはPHS産業だけに偏在しているノウハウであり、それ以外の人たちはだれもやっていないのです。
これもPHS産業界にあるかなり有力な財産なのです。こうした技術がないと、前述した図12に示すように例えばリピーター(中継器)をたくさん配ろうとか、フェムト・セルをどんどんお客さんに配ってやっていこうとかいう場合に、かなり干渉の問題で苦しむことになるのです(図12)。
■ 最近、フェムト・セルなどへの取り組みのトーンが落ちているように思いますが。
近 それも干渉の問題と無関係とは思えません。一方PHSは、もともとコードレス電話ですから、コードレス電話の親機というのはどこに設置されてもいいわけですね。
ですから、例えば、東京の高島平のようにお客さんの密度が高いところで、適当にコードレス電話の親機(フェムト・セル)をつけても大丈夫というのと同じことなのです。もともと無作為にものすごい密度で基地局がつくられることを前提にしているシステムですから。事業者が計画的に基地局を設置をしていくように考えられたマクロ・セルのシステムとは、そこのあたりが根本的な違うのです。
携帯電話(マクロ・セル)側も、いろいろ努力をされて、ある程度セルをオーバーラップしたり、無作為に置局しても大丈夫なようにいろいろな努力をされていますから、両者は近づきつつあるんですけれども、設計コンセプトの違いというのは大きな差としてやはり出てくると思っています。この辺のノウハウを我々は十数年蓄積しているという自負があり、ここが次世代PHSの一番の大きなポイントです。