[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪前編≫

― 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る―
2015/01/29
(木)

本誌2014年11月号から「欧州の風力発電最前線」というテーマで連載を開始したところ、大変な好評を博した(現在連載は3回まで進行)。また、昨年(2014年)は電力会社5社から、再エネ(特に太陽光発電)の接続申込みの回答をいったん保留するという、「接続保留」問題が発生し、関係者に大きな衝撃を与えた。
このような背景から、同連載の一環として、電力の全面自由化を目前に控えて、自由化後、風力発電・太陽光発電を中心とした日本の再生可能エネルギーの位置づけはどのように変わっていくのか、また欧米の取り組み状況などについて、最先端でご活躍中の3名の研究者に多角的な議論をしていただいた。
【座談会出席者】<司会>名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授 舟橋 俊久(ふなばし としひさ)氏、 関西大学 システム理工学部 電気電子情報工学科 准教授 安田 陽(やすだ よう)氏、 横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授 辻 隆男(つじ たかお)氏

電力小売りの自由化と再生可能エネルギーの不確実性

moderator:Toshihisa Funabashi

〔1〕誤解されている「自由化」の意味

─舟橋:日本では電力の全面自由化が、間近に迫ってきていますが、最初に、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の位置づけが、今までとどのように変わってくるのか、率直なお話を伺いたいと思います。

 私は、自由化が実現すると、おそらく今まで以上に電力コストが重視される時代を迎えるのではないかと思っています。特に天候に左右される再エネの「不確実性」がコストと密接に絡み、ますます浮き彫りにされるように思いますが、安田先生はどのようにお考えですか?

安田:よく日本での議論の中で、自由化になったら完全競争で、再エネに対するFIT(固定価格買取制度)や補助は不公平だとか、政府が介入しているなどと言われていますが、私は、これは逆だと思っています。なぜかというと、今回の自由化というのは電力の「発電部分と小売り部分」だけで、送電部門はむしろ規制強化になるからです。

 すなわち、送電部門は、新電力などの新規参入者や新しい発電技術に対して完全に公平に参入できるようにするために、むしろ規制強化になります注1

 そのように規制を強化することによって、新しい技術(太陽光や風力などの再エネ)の参入障壁を取り払うことができると思います。もちろんコストも重視ですが、再エネがどれだけ導入すべきなのか、再エネが国民の中でどのくらい議論され、日本の政策にどう位置づけられるかによって、規制の内容は変わってくると思うのです。そのあたりのバランスが大変難しいと思います。

〔2〕自由化によって、送電部門は逆に規制  が厳しくなる!

─舟橋:自由化によって、送電部門は逆に規制が厳しくなる。それなのに、電力会社においては、これ以上再エネは導入できない、昨年(2014年)9月のような接続保留になるという状況を迎えているということですね。

 辻先生、この点についてはいかがでしょうか。

:再エネの導入限界を考慮するうえでは、先ほど舟橋先生がおっしゃったように「不確実性」の捉え方が非常に重要になると考えています。個々の再エネの変動は確かに不確実ですが、互いの変動がならされる「平滑化効果」がありますので、すべての出力が一斉に最大、もしくは一斉にゼロとなるような、理屈上最も大きい幅での変動はなかなか起こりません。

 再エネが電力系統に与えるインパクト(影響)の評価が簡単ではないことは、経産省のワーキングの議論からもわかります。また、この平滑化効果を考慮すると、不確実な再エネの出力も一定の「確実さ」をもつようになりますので、これを見込みある供給力として電力市場に取り込むような動きも重要となるでしょう。 

 さらに、再エネの系統への接続の場合、ディープ接続注2、あるいはシャロー接続注3などと言われているように、系統に接続するまでの設備負担をどのように扱うかという問題が、今後、再エネが広がりを見せていく中では、重要になると思います。

─舟橋:電力市場や制度的なことが、今後、ますます重要になってくるということですね。

:はい。その通りです。

〔3〕「不確実性」は重要なキーワード

安田:今、辻先生がおっしゃった不確実性というのは、重要なキーワードだと思います。その理由は、今の日本での送電線への連系コストは、原因者負担になっているからです。

 「原因者負担」とは、風力や太陽光の変動対策や系統増強は、新しくつなぐ発電事業者(原因者)の方でお金を負担して何とかしてくださいという考え方です。辻先生のおっしゃるディープ接続がこれにあたります。

 ところが、欧米では、新規事業者が何とかするのではなく、系統全体で面倒を見るということになっています(シャロー接続に相当)。変動成分の発生原因者はなにもせず、系統全体が責任をもつということは、一見不公平で面倒なことのように見えますが、そのほうが技術的にもそれほど難しくなく、社会コストが安くなり、最適化されるからです。逆に、原因者負担で発電事業者が個別に対応すると、社会全体でたいへんなコストがかかってしまいます。

 日本では、そこが考慮されずに新規参入者(発電事業者側)が系統増強費を負担したり、変動成分を可能な限り減らすという発想になっています。これは無駄に社会コストを増やし、国民負担も増大しかねません。

─舟橋:そこですよね。

安田:電力自由化と再エネの大量導入という事象は、車の両輪のように動いていますので、この点が最初に私が言いたかったところなのです。送電部門の規制を強化するのは、新規技術や新規参入者にも公平性を担保し参入障壁を下げさせるためなのです。そもそも「規制」というのはあれこれ制限することではなく、プレイヤーに公平に機会を与えるためにあるものです。しかし、今の日本の電力系統は、原因者負担(発電事業者側の負担)の原則を崩していません。そうすると、やはり再エネという新しい技術が市場に入りにくくなり、系統につなげられないということになってしまいます。

 不確実性を取り扱う際には、発想を変えないと日本は変わらないのではないかと思うのです。いかがでしょうか。


▼ 注1
世界では、電力自由化の改革の過程で、主に送電部門を監督する強力な規制機関が誕生している。例えば、米国では1977年に連邦エネルギー規制機関(FERC)が創設され、1990年代以降の電力自由化に伴うさまざまな改革を経て、今日の形に至っている。また、欧州では2005年にドイツの連邦規制庁(BNetzA)、2000年に英国の電力ガス規制庁(OFGEM)などの規制機関が各国で次々と誕生し、さらに欧州連合(EU)でも欧州エネルギー規制協力庁(ACER)が2008年に設立されている。これらの規制機関は、各国・各地域で形態が異なるものの、政府や市場から高い独立性を保ち、強力な権限をもっているのが共通である。各国の電力規制機関の業務は、市場監視や送配電事業の許認可だけでなく、系統計画や系統信頼度に関するルールの整備・監督、再生エネ・省エネ促進の監視などが含まれることが多い。
一方、規制される側の系統運用者の組織としては、北米では北米信頼度協議会(NERC)、EUでは欧州電力系統事業者ネットワーク(ENTSO-E)が、複数の独立系統運用機関(ISO)や地域送電機関(RTO)、系統運用者(TSO)を束ねる協議団体という形で規制機関から認可され、系統信頼度の維持や送電網建設計画などが厳しく義務づけられている。我が国でも2015年4月に「広域的運営推進機関」が発足し、広域運用などのルール作りが行われる予定である。

▼ 注2
ディープ接続:発電事業者が既存の系統に連系する際に、既存系統の増強コストを発電事業者側が負担する接続料金方法。

▼ 注3
シャロー接続:発電事業者が既存の系統に連系する際に、既存系統の増強コストを送配電会社側が負担する接続料金方法。

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