[特別レポート]

― Open Networking Summit 2015レポート ― ソフトウェアが世界を変える! SDN/NFVとオープンソースによる企業改革の時代へ

2015/08/27
(木)

組織と人を変革する

 そして変革は設備だけで起きるのではない。同じAT&Tのアンドレ・フィッチ(Andre Fuetsch、SVP Architecture & Design)氏が、別のパネル・セッションで「SDN/NFV in Action now」として強調したことは、設備や技術よりむしろ組織と人の「ピボット」、つまり方針転換だった。

 同氏によれば、(特殊な)ハードウェア中心から、ソフトウェア中心なネットワークに転換するために、ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)と提携しており、オンラインのマスターコースを用意し、社員がコンピュータサイエンスのクラスを受講できるのだという。

 その受講者数がただごとではない。その受講者数は社員のうち9万6千人にもおよび、力の入れ具合が感じられる。「新しく我々が加えようとしている環境にふさわしい人材となるために」とのことで、これは給与システムにも反映されるという。

いつか来た道

 筆者の感覚では「Agile」(アジャイル)という言葉は、いわゆるWeb系の企業がよく口にしてきたフレーズである。その対極ともいうべきレガシーの代表たるAT&Tからそのような言葉が出てきたことに注目したい。

 このスピード感なくしては企業競争力が保てない、そのためにレガシーな設備屋がソフト屋的ビジネスサイクルを導入する。そのためには、オープンソースを、文化としても取り込まざるを得ないのだ、という主張が ONS の複数のセッション、たとえばSKテレコム(本社:大韓民国 ソウル)やドイツ銀行(本社:ドイツ フランクフルト)などから聞こえてきた。

 筆者はここでどうしても Linux とともに オープンソース・ソフトウェア技術が大企業を含めた IT業界全体に浸透していった過程を思い出してしまう。

 2000年代、富士通や三菱東京UFJ銀行などの大企業はコストとスピード、そしてスケーラビリティのために「white box」と呼ばれるPC サーバとLAMP (Linux/Apache/MySQL/Perl)、つまりオープンソース・ソフトウェア群を、そのコミュニティや文化ごと企業のなかに取り込まざるを得なかった。

 副作用に対する不満も出たが、最終的にそれらは成長痛として受け入れられたのだと筆者は理解している。

 昨年(2014年)までのONSではまだまだ「SDN が何をもたらしてくれるか」といった方向のセッションが見られたが、2015年は「自分たちが道具としてSDN をどう使えるか(どう使って組織競争力を高めるか)」で話をしている印象が強かった。これもまた オープンソースが通った道そのものだ。

ソフトウェアが世界を変える

 筆者はソフトウェアが世界を変えていく過程を何十年も見てきた。

 1980年代のPCビジネス、1990年代後半以降のインターネット、2000年代終盤以降のスマートフォンなど、歴史あるハードウェア・ベースの大企業を新参のソフトウェア企業が巻き取ってきた。

 SDNが注目される理由の1つは、これと同じことがネットワーク機器業界に起きる可能性があるからだ。

 つまり、SDNを入り口として中国や台湾のODM(Original Design Manufacturing、委託者のブランドで製品を設計・生産すること)ベンダのスイッチにオープンソースの制御ソフト群(例えばCumulus Networks注2)を載せる製品が急速に成長し、シスコなど従来的な大企業を隅に追いやる、といった展開である。

 同じことはM2M/IoT 分野でも起こり得ると筆者は考えている。センサーや関連ハードウェアのビジネスを、そのうちに新参のソフトウェア企業が巻き取ってしまうのではないか、と。Foghorn Systems注3など IoT 向けソフトウェアプラットフォームにフォーカスしたスタートアップも立ち上がりつつある。しばらく注目するのが良いだろう。


▼注2
http://cumulusnetworks.com/

▼注3
http://foghorn-systems.com/

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