[視点]

スマートメーターの電力情報は誰のものか

─今問われる「データの一次/二次利用と著作権」─
2013/01/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

スマートグリッドの構成要素であるスマートハウスやスマートビル、スマートコミュニティなどの実証実験が活発化し、日本でもスマートグリッド実用化のフェーズを迎えている。これらの構成要素の心臓部となるのは「スマートメーター」である。スマートグリッド時代に各家庭のスマートメーターから取得される「電力使用量の情報(データ)」は誰のものか。ここでは、新しいビジネス市場を創出する可能性のある「スマートメーターからの情報」に焦点を当て、その法的定義から今後の展開までを解説する。

スマートグリッドにおける個人情報とデータ利用拡大に伴う問題点

スマートグリッドにおいて、

  1. 電力全体の需要と供給に関する情報
  2. 需要者側の家電機器やエアコンなどの電力消費機器の利用状況に関する情報
  3. 各種の発電に関する情報

などは重要である。これらの情報は、スマートグリッドにおける30分デマンド制御注1、電力の需要予測、電気料金の動的価格設定(ダイナミック・プライシング)など、主要なアプリケーションにおいても必須である。

さらに、これらの情報を素早く(低遅延で)収集できれば、系統電力を安定に制御するためにも利用できる可能性がある。近い将来、重要な電力ストレージ資源(蓄電池)と考えることができる電気自動車の「給電」「供電」「利用」などの情報は、スマートグリッドにとっても有用な情報となるであろう。

これらの情報を取得する場合に、問題となるのは個人情報の取り扱いである。個人情報を扱う際には、基本的にはオプトイン、すなわち「事前にデータの提供者(一般家庭等)から利用目的を明示したうえで、当該データの利用許可を取得しておく」ことが求められている。この場合、新しいサービスを展開するたびに、利用者に了解を得なければならないため、利用者にもサービス提供者にも煩雑になる可能性がある。その結果、時期を逸して大きなビジネス市場を逃す可能性がある。

これと関連して、ASP・SaaS・クラウド注2の利用分野で、同様の問題が発生している。欧米では、すでにインターネットの特性を活用した政府情報の公開や行政への市民参加を促進するオープンガバメント(開かれた政府)が進んでおり、スマートグリッドで扱う情報も、このオープンガバメントの一貫としてデータの共有を図ることが考えられる。このような状況を考慮し、わが国では2010年5月に政府が「新たな情報通信技術戦略」注3を策定し、オープンガバメントの推進が決定した。

このオープンガバメントを進めるうえで問題となるのが、そのデータの蓄積や公開、および二次利用などにおけるさまざまな問題である。例えばASP・SaaS・クラウドの普及に必要なデータの安全性の確保や、利用者のリスクを軽減するなどに対応することなど、安心・安全に利用できる環境の整備が必要となる。

こうした流れの中で特に注目されている、スマートグリッド環境における「スマートメーターからの情報(データ)」の取り扱いについて焦点を当てて見ていく。

スマートメーターからの情報(データ)の利用形態と著作権

一般にデータ(情報)に関しては、ある目的を達成するために何らかの方法で取得したデータを利用する場合と、その取得したデータを加工したデータを利用する場合があるが、前者は一次利用、後者は二次利用と呼ばれている。

図1は、データ(電力使用情報)の一次利用と二次利用の関係を、身近なスマートグリッド環境の場合で、簡単に示したものである。

現在、読者の関心が高いスマートメーターに関して、東京電力が一般公募を行っており、その仕様はオープンな国際標準を採用するユニバーサルデザイン(多くの人が利用可能となる設計)を基本として、どのような物理層でも対応可能な構造を備えている。それでは、このスマートメーターから取得された電力使用量などのデータは誰のものといえるのか。

図1 スマートグリッド環境におけるデータの一次利用と二次利用の関係

図1  スマートグリッド環境におけるデータの一次利用と二次利用の関係

まず、データの「著作権」が認められるかどうかは判断がわかれるところであるが、いずれにしても、顧客(家庭)と電力会社との契約時にデータの著作権についてどのように取り扱うかを明記することが必要である。契約時に、電力会社が電力使用量などのデータに著作権があることを認めると、電力会社はそのデータを顧客の許可なく公開できない。ただし、著作権は「データの公開を妨げる権利ではない」ため、電力会社が対価を支払って当該データを利用することは可能である。

また電力会社は、顧客がその著作権を放棄する契約を結ぶことも可能である。


▼ 注1
30分デマンド制御:電力需要目標値と実際の電力消費量を30分の時間間隔で一致させるように制御すること。高圧受電を行う需要家に対しては、30分毎の電力需要量(デマンド)をもとに基本料金が算出されるため、電気料金削減と電力利用量削減の双方を考え合わせれば、デマンドをある決められた値を超えないように制御することが望ましい。そこで、デマンド制御を行うための様々な情報交換が必須となる。

▼ 注2
ASP・SaaS・クラウド:総務省では、ASP、SaaS、クラウドの普及拡大やそれらの適切な利用促進を目的に、ASPIC(特定非営利活動法人ASP・SaaS・クラウドコンソーシアム)と合同で「ASP・SaaS・クラウド普及促進協議会」を設立(2007年4月。2011年9月、現在の名称に変更)。道路、下水道、建物などの社会資本の分野ごとに、ASP・SaaS・クラウドサービスを提供、利用する際の留意すべき事項等が検討されている。
http://www.aspicjapan.org/business/diffusion/

▼ 注3
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/100511honbun.pdf

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