品質を担保しつつ、スピード(市場)に対応する基盤づくり
写真1 株式会社ティージー情報ネットワーク 基盤戦略推進部 アプリ基盤 グループマネージャー上田 志雄 氏
コスト的に見れば、クラウドのほうがはるかにコスト削減できるが、一方で、デメリットもある。その1つはセキュリティの問題である。TGアイネットは、現状では、クラウドサービスにおけるセキュリティについて、ユーザーからの疑いや不安があり、全面的にクラウドへの移行というのは、まだまだ足踏み状態であるという。
東京ガスグループでは、約1,100万軒の顧客情報を管理する顧客データベースを中心に契約や利用料金の管理、請求システム、顧客対応システムなどを抱えている。増大するシステムの複雑さと大規模な障害リスクへの対応と電気・ガスの自由化への対応を進めるなかで、どこまでデータ保護をしっかりするか。台所まで営業スタッフを入れてくれるという、信頼されている顧客との接点を大事にしている会社が、信頼を一気に失うことにもなりかねない。これもまたクラウドの怖いところである。
「であれば、無理にデータを出さなくても、基盤(プラットフォーム)としてクラウド使う使い方も1つの方法だと思っているのです。プラットフォームというのは、前出の図4のように、セキュリティもそこで担保し、いったんそこでDMZ注14で受けてくれて、東京ガスとしてはAPI提供するというような考え方も1つはありだと思っています。その方向で検討を進めていきたい」と上田氏。同氏は続いてこう締めくくった。
「技術の変化は早いので、これだと決めて20年とか、昔のように長い期間使えないんです。技術の変化をいかに吸収して、実際の業務アプリケーションに影響を与えないかというのが1つのテーマです。私たちのようなエンタープライズでしっかり、がっちりとという企業は、しょっちゅうサーバを立てることはできないので、ある程度守るべきところをつくらなきゃいけない。もちろん早い変化にのっかっていけるところはどんどん捨てていけばいいと思うんです。品質をある程度担保しつつ、スピードを上げるためには、例えばパッケージの活用の選択肢もある。パッケージをうまく活用したり、環境面ではクラウドをうまく活用したり。両方の分野をやっぱり準備しないといけないということです」。
◎取材協力
上田 志雄(うえだ ゆきお)氏
株式会社ティージー情報ネットワーク 基盤戦略推進部 アプリ基盤グループ マネージャー
日本国際通信株式会社、日本テレコム株式会社を経て、2003年から株式会社ティージー情報ネットワークに勤務。国際通信アンテナ建設からシステム開発まで幅広い分野のプロジェクトを経験。
日本情報システム・ユーザー協会主催「ソフトウェア文章化作法若手向け」講師。主な著書に『要求を聞き出す技術』(JUAS出版、2014年11月)、『ITエンジニアのための伝わる文章力ドリル』(日経BP社、2016年1月)など。
▼ 注14
DMZ:DeMilitarized Zone、非武装地帯。インターネットに接続されたネットワークにおいて、ファイアウォールによって外部ネットワーク(インターネット)からも内部(組織内の)ネットワークからも隔離された区域のこと。