[特集]

青森県の先進都市「弘前型スマートシティ」実現へのロードマップと全体像

2013/06/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

【インプレスSmartGridニューズレター 2013年6月号掲載記事】青森県の先進的都市「弘前型スマートシティ」が将来誕生する。2011年3月11日に発生した東日本大震災において、弘前市も2日間の停電とガソリン、灯油などの長期出荷停止など、市民生活の危機的な状況を経験した。そこで同市は、2013年3月27日、地域特性をふまえた再生可能エネルギーと情報通信技術(ICT)を活用して“ 災害に強く環境負荷の小さい街づくり” を目指す「弘前型スマートシティ構想」を策定した。これは中長期を見据えた18年にも及ぶ構想で、快適で安心できる雪国のインフラづくりを目指す。同構想について、弘前市 都市環境部長 澤頭 潤氏にお聞きしてレポートする。

3.11直後の燃料の途絶が「弘前型スマートシティ構想」策定のきっかけに

弘前市(ひろさきし)は青森県西部に位置し、かつては弘前藩の城下町として栄え、現在も人口約18万人の津軽地方の中心都市である。東に奥羽山脈の八甲田連峰を臨み、西に青森県最高峰「岩木山」、南には「白神山地」、市の中心には県内最大流域面積の「岩木川」が流れている。また青森県内屈指の穀倉地帯であると同時に、りんごの一大産地でもあり、青森県の約4割を生産している(写真1を参照)。

写真1 岩木山と弘前公園を中心とした弘前市街。市の中心に岩木川が流れている。〔写真提供:弘前市〕

写真1 岩木山と弘前公園を中心とした弘前市街。市の中心に岩木川が流れている。〔写真提供:弘前市〕

2010年3月11日に発生した東日本大震災では、被災地に限らず、電気、ガス、水道などさまざまなライフラインが停止するという、大規模な災害時におけるエネルギー供給体制の脆弱性が露呈した。同市では、地震による直接の被害はなかったものの、電気復旧に2〜3日、ガソリン、灯油などの燃料は長期間出荷停止となった。

3月の東北地方はまだ寒さが厳しく、各家庭の暖房の手段である灯油など燃料の途絶は特に市民生活への影響が大きく、エネルギーの自給率向上や効率的な利用の重要性が改めて強く認識された。

このような経験も踏まえて弘前市では、再生可能エネルギーの効率的な利用や、近年進展が著しいICT(情報通信技術)を活用した、地域経済の活性化や雇用対策、雪対策など、地域の課題解決につながる「弘前型スマートシティ」の構築を目指して、「弘前型スマートシティ構想」を策定した。

同構想は、弘前市総合計画のエネルギー、ICTを活用した街づくりのマスタープランであり、計画期間は2013年度から2030年度までとしている。今後想定されるだろう同様な災害に備え、エネルギー的に自律した街にしたいという思いは強く、青森県内ではこのような試みは初めてとなる。

それでは、具体的に弘前市の取り巻く状況はどのようなものなのだろうか。

153センチメートルの豪雪と市民環境を取り巻く課題

弘前市を取り巻く環境と現状は、大きく表1のように整理できる。また課題については、以下に示す通り、「積雪への対策」「市民へのエネルギーの安定供給」「地域の活性化」の3つが主なものとなっている。

表1 弘前市のプロフィールと取り巻く環境など

表1 弘前市のプロフィールと取り巻く環境など

〔1〕150㎝を超える積雪への対策:20億円に達する

冬季の厳しい寒さと雪は弘前市の大きな特徴である。2012年冬の最大積雪量は153cmにも及び、これら積雪の解消は市民生活の利便性向上だけでなく、外出を促進することで地域の賑わいの創出にもつながっていく。除雪による影響として、道幅が狭くなることによる交通への支障や、住宅間口の雪の片付けに住民が苦慮するなどの障害が出ている。

また、市内の除排雪は重機(除雪車など)によるものが中心で、除雪対象の延長距離は約1000kmにも及ぶ。このため、毎年約7億円規模の多額の経費を費やしており、特に近年の豪雪による2011(平成23)年度の除排雪費用は、過去最高の約19億円にのぼり、2012(平成24)年度はこれをさらに上回り20億円に達した。2011(平成23)年度の除排雪費用は同市の歳出762億1781万円の2.5パーセントと、歳入の市税199億9481万円の約1割に匹敵する規模を占めている。このように、除雪費用の低減は重要な課題となっている。

〔2〕市民へのエネルギーの安定供給

同市は冬季には雪に閉ざされる気候から、東日本大震災のような大規模災害時には孤立する可能性が高い。さらに暖房の熱需要が大きく、その多くを灯油などの化石燃料に依存している。各家庭には400リットルのホームタンクが設置されており、灯油のインフラが普及している。万が一厳冬季に災害などによって孤立し、灯油などのエネルギー供給が断たれた場合、その寒さから即座に生命の危機にさらされる恐れがあるのだ。

また、日本は化石燃料のほとんどを海外からの輸入に依存していることから、震災等の自然災害だけでなく、政治的な理由からも市民生活への供給が滞る可能性もある。このようなエネルギーセキュリティ(非常時に備えてエネルギーを確保するリスク管理)の観点からも、エネルギー供給に備えておく必要がある。

このような背景から、太陽光発電や地熱発電などの再生可能エネルギーや従来型エネルギーのそれぞれの長所を活かしながら多様化を図ることで、いかなる時も市民へのエネルギーの安定供給を実現することが重要な課題となっている。

〔3〕地域の活性化

地域資源を最大限に活用して産業の振興を図って雇用を確保し、市民所得の向上を実現することも重要課題である。

農業分野では、りんごの地域資源としての積極的な活用とともに後継者不足や農業従事者の高齢化が課題となっている。また、観光分野では、2010(平成22)年度の東北新幹線新青森駅開業による観光客入込みと消費額の増大が期待されることから、魅力ある観光地づくりをさらに進めることが課題となっている。

商工業分野においては、活力ある中小企業の育成をはじめ中心市街地の活性化や企業立地の促進、産学官の連携による新産業の創出などが課題となっている。

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