[スペシャルインタビュー]

「直流 or 交流」から「直流 and 交流」へスマートグリッド時代に果たすべきIECの役割

第34代IEC会長 野村淳二氏に聞く!
2013/07/01
(月)

かつてのT. エジソンとJ. ウェスティングハウスらの「直流・交流戦争」の結果、現在は世界的に交流が主流となっているが、最近ではスマートハウスなどにおける太陽光発電や電気自動車からの直流給電、あるいは再生可能エネルギーからの電力供給など、直流の給電が増加してきている。このため、もはや直流の扱いについては無視できない時代になってきており、IEC(国際電気標準会議)内でも取り組むべき課題の1 つとなっている。このようななか、2013年1月、パナソニック株式会社 顧問の野村淳二氏が第34代IEC会長に選出された。そこで本誌では、野村氏のIEC 会長就任の抱負とともに、IECの今後の活動内容とその役割についてお聞きした。

第1部 IECとは? その歴史と役割

電気の世界の国際規格を策定するために作られた「IEC」

Junji Nomura

─IEC第34代会長ご就任おめでとうございます。まず、IECについて概要を簡単に教えていただけますでしょうか?

野村:IEC(国際電気標準会議)は1906年に設立された組織で、電気の世界の国際規格を策定するために作られました。現在は、正会員60カ国、準会員22カ国を含む合計164カ国が加盟しています。

標準には、大きく「デジュール」(de jure、国際標準)と「デファクト」(de facto、事実上の標準)の2種類があります。「デジュール」は、WTO(世界貿易機関)に加盟している国であれば、その標準規格を遵守するというもので、電気関係はIEC、通信関連はITU(国際電気通信連合、1947年に設立)、電気分野を除く工業分野の国際規格を策定するのがISO(国際標準化機構、1865年に設立)の範囲となります(表1)。

表1 規格と国際標準化機関

表1  規格と国際標準化機関

〔出所 各種資料より〕

デジュール標準を策定する目的は何かというと、電気安全規定というのは技術的な要素が強いので、各国で標準規格を設定されてしまうと、1回1回その基準をパスするために、それぞれのメーカーが多くのお金を投入して評価システムを用意したり、安全面の設計を国別に行わなければならなくなってしまいます。そうなると、結果的に貿易が成り立たなくなってしまう可能性があります。

中国も2001年にWTOに加入しているように、国際貿易を行う国に関してはWTO/TBT協定注1を結び、技術的な点が障害になることを事前に防ごうというのが標準化の目的です。

一方の「デファクト」標準ですが、これは市場競争を勝ち抜くことによって決まるその業界の「事実上の標準」と見なされている規格のことをいいます。

IECが対象としている電気は、もともと直流だったものを交流にすることによって安く遠くまで運べるようになりました(図1)。エジソンは直流配電を主張していましたが、トランスやモーターなどのさまざまな電気機器は交流のほうが安く、かつ作りやすいのです。また、三相交流注2で高圧送電をすると、電線(送電線)の抵抗分以外の電気のロスがなくなります。そのため、最小限のロスで遠隔地まで送ることができるのです。

図1 電力送電網の歴史

図1  電力送電網の歴史

〔出所 各種資料より〕


▼ 注1
WTO/TBT協定:1995年、加盟各国の国家規格を原則的に国際規格と合致させることになった。日本においてもこの協定を批准しており、JIS規格もISOならびにIEC規格と整合しなければならない。

▼ 注2
三相交流:電流または電圧の位相を互いにずらして、3系統の単相交流を組み合わせた交流のこと。

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