[期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!]

期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!≪後編≫ ―運転を開始した「銚子沖」と「北九州市沖」の徹底比較―

2013/10/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

NEDOの洋上風力発電の具体的な取り組み

〔1〕NEDOの7MWの超大容量風車の開発とロードマップ

このような背景のなかで、NEDOは従来の陸上風力の研究開発だけでなく、洋上風力に取り組みを開始しているが、その内容は、大きく2つ挙げることができる。

  1. 洋上風力発電の実証研究
  2. 超大型風力発電システム技術研究開発

具体的には、まず2008年度に実証研究であるFS(Feasibility Study、実行可能性)の調査を行い、2009年度から洋上風況観測システムの実証研究がスタートする。さらに2010年度から超大型風車の技術研究開発が行われているが、この実証研究が、銚子沖と北九州市沖の実証研究である。

さらに、2011年度から超大型風力発電システムの技術開発が開始された。具体的には、NEDOから三菱重工業に技術開発が委託され、超大型7MW(7,000kW)の洋上風力発電システムの技術研究開発が行われている。現在、世界各国で製造されている主力の風車は、3〜4MW程度である。開発計画の段階でも最大で5〜6MW程度であり、日本が開発している7MW級は世界最大級の商用化が可能な風車となっている。

大規模の洋上風力発電を実現するための技術

〔1〕洋上風車専用ドライブトレインの開発

このような超大型の風車を開発するには、増速機に使用される歯車が巨大なものになるため、故障やコストの問題などの面から制約を受けてしまう。これを解決するために、風力発電の風車の回転を発電機に伝える、「動力伝達装置」(ドライブトレイン)の技術的なブレークスルーが必要となる。

そこで、図2に示すような「油圧ポンプ(DDT)」(Digital Displacement Trans-mission、デジタル制御可変容積式動力伝達機構。英・アルテミス社が開発)を導入して、洋上風車専用ドライブトレインを開発している。この油圧ポンプ(DDT)は、

  1. 風車の回転をいったん油圧ポンプの油の流れに変え、それを油圧モーターに伝えることによって、発電機を回転させる仕組みになっていること。
  2. 大きな事故が生じた場合に、他の方式では装置全体を交換する必要があるが、油圧部品の部品交換だけで対応できること。
  3. 油圧モーターの数を増やしたりすることによって、大出力化が容易に可能であること。

などの特長を備えている。

図2 大容量風力発電に不可欠な油圧ポンプ(DDP)の仕組み

図2 大容量風力発電に不可欠な油圧ポンプ(DDP)の仕組み

〔出所 NEDO「洋上風力発電の取組」、2013年6月27日、17ページ〕

〔2〕大出力/高利用率を実現するために必須な長翼ブレード

前述したように、風車を大型化するためには風車のブレード長を長くして、かつ強度を増す必要がある。このため、7MW級の風車では、長さが80m(直径:80m×2=160m)注2を超えるブレードが使用されるが、風によってブレードのたわみが大きくなるため、現在使用されているGFRP(Glass Fiber Rein-forced Plastic、ガラス繊維強化プラスチック)では、強度的に耐えられない面がある。そのため、CFRP(Carbon Fiber Rein-forced Plastic、炭素繊維強化プラスチック)を使用することになったが、CFRPはFRPの10倍の価格であるため、ブレードのすべてをCFRPにするのではなく、CFRPをブレードの一部に使用してブレードの強度を高めるように工夫した。

また、高強度化と軽量化のほかに、長翼のブレードには落雷をはじめ塩害や摩耗などの課題もある。例えば、大きな落雷があると、CFRPの内部に大きな電流が通るため、ブレードが故障してしまう。そこで、ブレードの表面に銅製のメッシュ(網)を取り付けて、電流を逃がす仕組みにしている。

〔3〕7MWの超大型の洋上風力は英国で実証実験

また、洋上風力の場合、例えば冬に故障すると作業船が風車まで接岸できないため、夏まで修理できないというような事態が予測される。そのため、故障の予知を可能とする、「遠隔監視システム」が重要となってくる。三菱重工業では、風車にセンサーを張り巡らせ、さまざまなデータを取得することによって、故障の予測が行われている。

この7MWの超大型の洋上風力発電システムは、世界の各国で開発され世界的な潮流となっているが、日本で開発されたこのシステムは、まず英国で世界初として導入されることを目指している。そのほか、米国、中国を北海沿岸などでも洋上風力発電の計画があるため、日本で開発・製造された超大型の風車を積極的に提案し、その導入を推進していく戦略である。

なお、三菱重工業では、すでに超大型の風車翼の試作を完了し、2013年5月末に独・ザスニッツ市(Sassnitz、バルト海に面した人口1万人の都市)から、特殊なトレーラーによって陸上輸送と、輸送船による海上輸送を組み合わせて、ドイツの試験設備まで輸送され、2013年7月から実施される各種試験の準備が開始されている。

ただし、英国の場合は、すでに前編で述べたように、ラウンド1、2、3というように、洋上風力の開発権をもっている電力会社が、いくつかの風車メーカーの風車と比較して、洋上風力発電システムを選択することになるため、導入が確定しているわけではない。

それでは、洋上風力の発電出力の限界はどこにあるのだろうか? これは予測が難しく、風車はこのタービンが受ける風の面積(ブレードの大きさ)によって発電する能力が変わってくるため、ブレードが大きければ大きいほど出力が増すが、その分コストが上がってくる。

現在、一番最適なブレードの最終的な大きさについては、今まさに研究されているところである。欧州では、10MWの風車をつくるという研究が進められている。


▼ 注2
普通の2MW級の羽根の長さは約40mなので約2倍の長さとなる。

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