[期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!]

期待高まる「洋上風力発電」とNEDOの戦略!≪後編≫ ―運転を開始した「銚子沖」と「北九州市沖」の徹底比較―

2013/10/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

欧州では10カ国が洋上風力の商用サービスを開始

〔1〕1662基(4995MW)の洋上風力発電が稼働

すでに洋上風力の商用サービスを開始している先進国の欧州では、表3に示す10カ国で洋上風力発電サービスが開始(2012年末現在)されている。具体的には、55カ所のウィンドファーム(風力発電群)で総計1,662基の洋上風力発電が行われている。その累積発電設備容量は4,995MWである。これを欧州の国別(累積)でみる(表3)と、第1位は英国の2,948MW(欧州全体の58.9%)に続いて、デンマークの921MW(同18.4%)、ベルギー380MW(同7.6%)、ドイツの280MW(同5.6%)などとなっており、英国がダントツの1位となっている。

表3 欧州で洋上風力の商用サービスを開始している10カ国の一覧(2012年末現在)

表3 欧州で洋上風力の商用サービスを開始している10カ国の一覧(2012年末現在)

〔出所 http://www.ewea.org/fileadmin/files/library/publications/statistics/European_offshore_statistics_2012.pdf

〔2〕洋上風力で断トツの英国

さらに、2012年中に設置された新設の洋上風力は計1166MWであり、第1位の英国が854MW(73%)、ベルギーが185MW(16%)、ドイツ80MW(7%)、デンマーク46.8MW(4%)となっている。

〔3〕欧州の洋上風力の水深と離岸距離

欧州は遠浅の海が多いため(例:40㎞沖で30mの水深)、洋上風力発電の建設の作業がしやすく、低コストで建設できる立地環境に恵まれている。一方、日本の場合には、離岸距離15〜35km程度で水深200mに達してしまうという特徴のため、欧州に比べ建設コストが高くなる傾向にある。

なお、欧州では、世界最大級の「EWEA OFFSHORE 2013」注4という洋上(OFF-SHORE)発電コンファレンスが2年に1度開催されており、洋上風力発電の最新動向を捉えることができる。

風車は回り始める風力:3〜4m/秒から回り出す

一般的に、風力発電で風車が回り始めるのは、風速3〜4m/sくらいからである。

風速3〜4m/sで回り始め、14〜15m/s程度まで発電し続けるが、それ以上は回転数を抑えるために、風車のブレード(羽根)の角度を変える、すなわちブレードが回り過ぎないように対処するのである。風車の出力(発電容量)カーブは、前述したように、風速3m/sで回り始めて、14〜15m/秒程度〔注:「定格風速」と言われる(風車ごとに異なる)〕になると一定の発電出力(頭打ち)になる。この頭打ちの発電出力が風車では定格出力「例えば、2kWあるいは2.4kW」などになる。

台風(風速20m以上)が到来した場合は、風車を停止させる。具体的には、風を受ける形になっているブレードを、風を受けない形にさせて風車の回転を止める。これはフェザリング(Feathering)と呼ばれ、風車は回らない状態になり、かつロックをかけて止めてしまうのである。

現在、日本の風力発電の累積設備容量(kW)は、260万kW(風車:1900基)程度であるが日本製の風車は4分の1程度で、あとは全部欧米製の風車である。日本の環境は欧州と違って台風など、厳しい風特性や気象条件下にあるため、それに起因した風車のトラブルが発生している。

そこで、NEDOでは2008年3月に、「日本型風力発電のガイドライン」(http://www.nedo.go.jp/content/100107254.pdf、NEDO)を作成し、風車の選定基準を策定した。風車建設予定地で、将来にわたって発生が予想される最大風速と風の乱れを適切に予想し、そのレベルに応じた風車選定を行うプロセスを提示する、マニュアル的な位置づけである。

洋上風力発電に関する実証研究の狙い

これまで解説してきたように、洋上風力発電の導入普及には、洋上風況特性の把握や、洋上風車特有の技術課題を克服する必要がある。そのため、実際に洋上で実証研究を行い、それらの課題を克服するとともに、それらの関連データを蓄積する必要がある。

〔1〕塩害に対する技術開発

まず風車自体に関して、陸上風車と洋上風車の違いは、洋上風車は非常に塩分が多いため、塩害で機械が壊れてしまうというのが非常に多い。その塩害に対する技術を開発することが重要である。

また、その洋上風車の場所に行って頻繁に風車のチェックやメンテナンスができないため、その風車の状態を遠隔監視できちんとできるようにしておく必要があるため、その遠隔監視の技術の高度化が必要である。現在でも、陸上風車にはいろいろな遠隔監視の装置がついているが、もっと詳しい情報を捉えるような遠隔監視の技術を開発する。

〔2〕洋上の風況特性の把握

同時に、観測タワーにおいて洋上の風況特性の把握をする必要がある。海は風が強くしかも安定している(風況が良い)が、日本では、1カ月間あるいは1年間のような長い期間、洋上の風をはかった例はない。

今回、日本における銚子沖や北九州市沖の実証実験が初めてのため、大きな注目が集まっている。

日本の洋上では、実際にどのような風が吹くかがわからないと、適切な風車の設計ができない。そのため、日本の洋上の風況特性の把握することは非常に大事なことであり、現在、そうしたデータを蓄積しているところである。

〔3〕環境影響評価手法の確立

さらに、環境影響評価手法の確立については、これは陸上風車でも、火力発電所の建設でも環境アセスを実施している。洋上の場合には、魚やイルカ、昆布、鳥などに対して、どうアセスすればよいか、地元の漁業組合との話し合いをどのようにするか、などの課題がある。

今後、いろいろな海で洋上風力を展開する場合、漁業関係者の方々に理解いただくには、環境アセスをしっかり行う必要がある。


▼ 注4
EWEA OFFSHORE 2013:EWEA洋上風力2013:2013年11月19日〜21日、開催地ドイツ・フランクフルト(2年に1回開催)。【主催】EWEA :European Wind Energy Association、欧州風力エネルギー協会。2011年の出展者:480社、参加者:8200名(http://www.ewea.org/offshore2013/about/

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