[特集]

スマートグリッド時代になぜ直流が注目されるのか?

― 家庭から次世代データセンター、直流送電まで ―
2013/11/01
(金)

電力・エネルギーとICTを統合したスマートグリッドへの関心が高まるなか、電力の利用効率の向上を目指して、直流給電が注目を集めている。ここでは、最初になぜエジソンが交直戦争に敗北し交流が普及していったのかを見たうえで、一般家庭(スマートハウス)における交流・直流問題を整理する。その後、直流給電に挑戦する次世代データセンターにおける新世代の電源「HVDC 12V 方式」を紹介する。また、太陽光発電をとり込んだ複数電源による省エネの実証実験や、国際的に高まる直流送電や超伝導送電の動向についても解説する。なお本記事は、さくらインターネット(株)代表取締役社長 田中 邦裕氏への取材をもとにまとめたものである。

交直戦争でなぜ直流陣営は負けたのか?

今なぜ、直流が注目されるようになったのだろうか? 「交流・直流の問題」というと、1880年代後半に米国で起こった交直戦争を思い出す読者も多いだろう。この交直戦争は、エジソン陣営とテスラ-ウェスティングハウス連合陣営の間で起こった。直流支持派のエジソンらは、1878年に「エジソン電灯会社」を設立し、1882年には直流発電による中央発電所をスタートさせた。

エジソン陣営は、科学的な根拠はなかったが「交流は危険だ」と主張し、死刑執行にウェスティングハウス社の交流機器を使用することを当局に要求。死刑に使用されるような交流は危険であると宣伝し、犬や猫を交流で殺したりして感性に訴え、交流が危険であることのキャンペーンを展開した。そこには、もはや真摯な努力を重ねてきた発明王エジソンの姿はなかった。

当時、例えば「電圧の昇圧が困難」「短距離送電しかできない」という直流の限界を知り、「電圧の昇圧が容易」「長距離送電可能」などの交流のよさを理解していたテスラは、エジソン社で交流発電機や交流電動機などを開発していたが、結局、エジソン電灯会社を退職した。彼は、その交流発電機の特許を交流支持派のウェスティングハウス社(1886年設立)に売却してしまい、同社とコンサルタントの契約をして活躍することになったのである注1

その後は、歴史の発展に見るように、大局的には直流は交流に敗北し、交流の全盛時代を迎えるようになっていったのである(参考文献:『新版 電気の技術史』、オーム社刊、1994年)。

〔1〕半導体(トランジスタ)の発明と直流

しかし1947年に、米国ベル研究所(現在:アルカテル・ルーセント社に所属)のバーデン、ショックレイ、ブラッテンらによって、半導体素子「トランジスタ」が発明されたことは、その後の交流の全盛時代を変える大きな転換点ともなった。この新しいエレクトロ時代を拓いたトランジスタは、直流で動作し、集積度を増してIC(集積回路)、LSI(大規模集積回路)と発展した。

さらに、1990年代のインターネットの普及やWebの発明(1991年公開)などとも重なり、現在では直流で動作するICやLSIは、コンピュータやスマートフォン、タブレット端末、液晶テレビをはじめとする家電や、自動車や航空機に至るまで、全産業分野を支配するほど普及し発展している。現在では、直流なくしてあらゆる産業は成り立たないほど、直流への依存度が高まっているのである。

すなわち、1890年代後半の交直戦争から120年を経た現在、まさに「エジソンの復活か」とまで言われるほど、直流への関心が急速に高まってきたのだ。

〔2〕一般家庭(スマートハウス)における交流・直流問題

次に、一般家庭(スマートハウス)における交流と直流の問題を見てみよう。

図1に、家庭における最近の交流と直流の関係を示す。現在、一般の家庭内には、交流(AC)による屋内配線が敷設されて、家電機器などはそのコンセントから電源を確保している。また、直流で動作するパソコンなどはアダプタをコンセントに挿入して交流を直流に変換して電源を得ている。この場合、AC電源はAC-DCコンバータ注2によって直流に変換されパソコンの電池に蓄積され、パソコンのCPUやメモリに直流電源を供給し動作させている。

図1 一般家庭における交流と直流

図1 一般家庭における交流と直流

図1からわかるように、交流のアダプタを通して直流を得ているパソコンやスマートフォンは、一見、交流で動作しているように見える。しかし、実際のパソコンやスマートフォンは、アダプタで交流を直流に変換し、直流で動作しているのである。本来、直流で点灯する一般家庭のLEDランプ(半導体)も、現在はAC-DCコンバータをLEDランプに搭載することよって直流を得て点灯している。さらに、インバータエアコン注3も同じような仕組みである。

これらからわかるように、本来は直流で動作するパソコンや一部の家電機器では、家庭の屋内配線が交流であるため、AC-DCコンバータで直流に変換して動作させる必要があるが、この変換の際に、電力の変換ロスが発生してしまうのである。

また、最近急速に家庭に普及している太陽光発電は直流で発電し出力するため、家庭で使用する場合にはDC-ACコンバータが必要となり、ここでも変換ロスが発生する。また、政府が進めるFIT(固定価格買取制度)を活用して電力会社(交流)に売電する場合にも、DC-AC変換(電力会社の系統はAC)が求められる。さらに、電気自動車の蓄電池から家庭に電力を供給するV2H(Vehicle to Home)の場合や、蓄電池(DC)から家庭に供給する場合にもDC-ACコンバータが使用され、ここでも変換ロスが発生する。

〔3〕USBコンセントの登場と普及

このような直流化への動きがあるものの、屋内配線をいきなり直流配線に変えたり、家庭の冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの家電機器を、即座にすべて直流家電(DC家電)に置き換えたりするのは不可能である。このため、少しずつ直流化し、当面は交流家電(AC家電)と直流家電(DC家電)のハイブリッド環境(混在環境)で、電力利用効率のよい家電環境を構築していくことが現実的であると考えられる。

最近、そのような動きの1つとして、規模は小さいが、例えば携帯電話やデジカメ、スマートフォン、タブレット端末を直流充電するために、USB注4コンセント(5V対応)を家庭で埋め込み型コンセントにして使用したり、あるいはUSBコンセントをACコンセントに差し込んで直流充電用に使用したりするケースが普及し始めている。このUSBコンセント(直流コンセント)は直流時代を迎えようしている現在、新しい動きとして注目されている(図2)。

図2 直流充電(5V対応)を可能とするUSBコンセントの例

図2 直流充電(5V対応)を可能とするUSBコンセントの例

(左)壁面埋め込み型 USB充電対応ACコンセント(USB2ポートモデル「PL-KC1US2」) 〔出所 プラネックスコミュニケーションズ(株)、http://www.planex.co.jp/products/pl-kc1us2/
(右)出力:DC5V、最大2.1A タブレットPC、スマートフォン用USB-ACアダプタ(USB2ポートモデル) 〔出所 サンワサプライ(株)、http://direct.sanwa.co.jp/ItemPage/700-AC005W


▼ 注1
ウェスティングハウス社は2006年に東芝グループとなる。

▼ 注2
AC-DCコンバータ:Analog Current(交流)-Direct Current(直流)Converter。交流電圧を直流電圧へ変換する装置のこと。直流-交流変換器。

▼ 注3
直流電力から変換した交流電圧の周波数を変化させて、モーターの回転を制御し温度を調節するエアコン。

▼ 注4
USB:Universal Serial Bus

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