[特集]

スマートグリッド時代に期待されるスマートなパワーエレクトロニクス技術

2013/12/01
(日)

最新パワーエレクトロニクス技術によるデータセンターの省エネ化

〔1〕HVDC給電システムの実現

日本国内の情報量の増加は、2025年には2006年の200倍に達するであろうという予測注2が政府によってなされており、それに伴って情報通信分野での電力消費量も5倍になると予測されている。

そこで、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、グリーンITプロジェクト注3の一環としてデータセンターに関する基盤技術の研究開発や電源システムの直流化技術の開発注4を平成21(2009)年度から平成24(2012)年度に渡って助成してきた。

そこでは、図5に示すHVDC注5給電(高電圧直流給電)システムを実現するために、AC-DCコンバータやDC-DCコンバータを並列構成にしている。

図5 データセンーの直流給電システム

図5 データセンーの直流給電システム

これによって、エネルギーを供給するサーバなどの消費電力に応じて単独、2並列あるいは4並列と動作するコンバータを切り替えて、常に最高の電力効率を実現するように最適な制御(アダプティブマネージメント方式)を行うスマートなパワーエレクトロニクス技術によって実現している。現在は、図6に示すように、コンテナサイズのデータセンターをNEDOグリーンITプロジェクトの一環としてNTTファシリティーズ、三菱電機、産総研、NECとともに作り、その中に試作のDC-DCコンバータを4台並列運転の状態で、1年間の実証試験を行っている。

図6 次世代グリーンデータセンター(モジュール型)

図6 次世代グリーンデータセンター(モジュール型)

〔2〕アダプティブマネージメント動作

DC-DCコンバータでは、負荷電流が小さい軽負荷時には、電力効率が著しく低下することはよく知られている。これを改善するため、並列に設置されたDC-DCコンバータ(単体運転、2台並列運転、3台並列運転、4台……)が電力効率を上げるようにするため運転台数を切り換えることによって、軽負荷時まで高い電力効率を維持することが、このアダプティブマネージメント動作(前述のDC-DCコンバータの並列運転)によって可能になる。

そのためには、複数のコンバータを通信網でつなぎ、情報を常に収集し、さらに高い制御性をもたせて、自在に立ち上げたり、停止状態にするという運転を繰り返さなければならない。

デジタル制御方式の電力変換器は、通信機能には優れているが、A/D変換や演算処理に時間を要するために、一般には負荷などの変化に対応する応答性は良くないと評価されている。

そこで、新たにコンバータ中のリアクトル注6の電流のピーク値を容易に捉える回路方式と高速で演算を行うアルゴリズム(処理手順)を用いる方式が提案されている。このような応答性に優れたデジタル制御方式によって従来よりもスマートなパワーエレクトロニクス技術を実現し、これにより、従来のPID制御方式注7と比較して応答性が良くなり、負荷などが変化することにより出力電圧の変動が収束するまでの時間を約1/3に改善している。

〔3〕太陽電池のパワーコンディショナー(PCS)

この並列構成のアダプティブマネージメント方式のデジタル制御DC-DCコンバータは、大電力化による並列運転の必然性が生じている太陽電池のパワーコンディショナー(PCS:Power Conditioning Subsystem)へも応用でき、その用途が広まるものと思われる。

パワーコンディショナーとは、直流で発電する太陽電池や燃料電池などの発電電力を、電力会社が家庭などに供給する交流(系統電力)に変換する機能を備えた装置であり、発電電力の制御なども行う機能をもっている。

太陽電池による発電は、太陽光の強さ(放射照度または日射強度)や温度の影響を受けて変化するが、環境や負荷の変化によらず常にその時の太陽光の強さに対応した最適な動作点で追尾(動作)することが重要である。

そのために、図7に示す最適動作点追尾機能を備えたDC-DCコンバータを含んだパワーコンディショナーを太陽電池に接続し、常に太陽光の強さに応じた最大の電力を太陽電池から取り出し、DC-ACインバータを通して交流負荷(家電機器など)に電力を供給している。太陽電池電源システムでは、太陽電池を大量に用いて直並列に組み合わせることによって大容量化を実現している。

図7 太陽光発電システム図

図7 太陽光発電システム図

さらに、先の図2に示したように、最適動作点追尾機能を備えたDC-DCコンバータの後段を、DC-ACインバータではなくDCバスとしてDC-DCコンバータをさらに追加する。これによって交流を介さずに負荷としてのバッテリーにエネルギーを蓄積したり、太陽電池が発電した直流電力を直流給電して家庭内の電気・電子機器を動作させたりすることも計画されている。

このようなパワーコンディショナーの大電力化や他システムとの協調運転に伴って、先に紹介したスマートパワーエレクトロニクス技術を用いたコンバータのアダプティブマネージメントをいかにうまくこれらのシステムに適用するかが重要な課題となってきている。


▼ 注2
http://www.meti.go.jp/policy/newmiti/mission/2012/pdf/2_1_7.pdf

▼ 注3
正式なプロジェクト名は「グリーンネットワーク・システム技術研究開発プロジェクト」

▼ 注4
正式な名称は「エネルギー利用最適化データセンター基盤技術の研究開発/データセンターの電源システムと最適直流化技術の開発」

▼ 注5
HVDC:Higher Voltage Direct-Current Power-Feeding

▼ 注6
リアクトル:エネルギー蓄積に用いるインダクタを特にこのように呼ぶ。

▼ 注7
PID制御:Proportional Integral Derivative Controllerは、フィードバック(Feedback)制御の一種。フィードバックとは、最適な出力値をえるため、ある回路の出力を入力側に戻す操作のこと。

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