中国における「産業構造改革の強化」の推進
〔1〕産業構造を高付加価値化、高度化へと転換
経済発展を続ける中国における製造業は、特別、先進的に開発された中国独自の生産システムによって製造業が成り立っているわけではない。また、生産システムの技術レベルもそれほど高いわけではないが、現状では生産能力が増えすぎてしまっているという問題を抱えている。
このため、中国は習近平政権注2(2012年に就任)になって以来、産業構造については「高付加価値化」「高度化」をキーワードに転換していく政策が推進されてきた。「産業構造改革の強化」、すなわち産業構造の調整モードへと大きく転換していくことになった。これによって、過剰な生産能力を解消し、さらに国有企業の改革も推進してきた。昨今、中国経済が失速していると報道されているが、これは中国政府が以前から、このような「調整」「改革」を主に推進してきた結果といえよう。
習近平政権誕生直後の2012年12月に開催された中央経済工作会議(毎年12月に行われ、翌年の経済政策の骨格を決定する会議)においても、経済構造の調整が中心的なテーマであった。また、2016年3月5日から開催された「第12期全国人民代表大会」(全人代)の第4回会議で発表された、今後5年間の中国経済・社会政策の大方針「第13次5カ年計画」においても、その路線が引き継がれていくこととなった。
〔2〕3年かけて経済成長率を8%台から7%台に低下させた
前出の図1に示すように、中国の経済成長率(実質GDP成長率)は、2012年、2013年、2014年とずっと8%割れが続いてきた。中国政府は、現在、自国の製造業についてはいろいろな課題を抱えていることを認識しているところから、「中国は‘製造大国’ではなく‘製造強国’を目指す」という方針を決定したのである。
この方針を実現して生産能力を調整・改革するため、まず、「期待成長」を増大させないように抑制することが求められた。期待成長とは、次のようなことである。
現在、中国で一番多い製造業は建材関連の企業であり、鉄鋼(鉄材)やセメント、ガラスなどの生産能力が異常に増大している。今後、マンションや住宅などの需要が高い伸びを示すと期待されているため、多くの企業がその分野に参入することになり(期待成長)、生産能力がさらに高まってきてしまっているからである。このため、この過剰な期待を制御して抑制していかないと、生産能力を抑えられなくなり、増大する一方となる。
経済成長率が8%割れで続いてきたのは、生産能力の調整・改革を製造業に関係する企業自身が自ら行うよう、政府が働きかけた結果の一面でもある。もちろん経済成長率が下がってきているので、中国の景気は減速・後退しているが、それでも経済成長率を8%台から7%台へ低下させるのに3年もかかった(この経済成長率の低下現象は、決して大幅でもなく急激でもない程度なのである)。
〔3〕中国製造2025に関する通知
このような事情から、中国は今後の経済成長の牽引役を、投資や輸出から国内消費へと転換させようとしている。その政策の中心に位置するのが、中国政府(国務院)が2015年5月に発表した「中国製造2025に関する通知」(製造強国戦略第1次10カ年行動綱領)である。
すなわち、「中国製造2025」は、中国が建国100年を迎える2049年注3までに、製造強国戦略を実現するための最初の10年の行動綱領なのである。
この「中国製造2025計画」は大きく見ると、
- 基本原則:「4つの原則」
- 基本方針:「5つ方針」
- 戦略目標:1つの目標、3つの段階
によって、製造強国(1つの目標)の実現を図るロードマップとなっている。
次に、中国製造2025について、その全体的な構成を見ながら、上記のロードマップを見てみよう。
▼ 注2
習近平政権:習近平(シュウ・キンペイ)氏は、2012年11月の第18回共産党大会後の11月15日に開催された第18期1中全会(第18回共産党大会党中央委員会第1回全体会議)において、共産党の最高職である「中央委員会総書記」と軍の「党中央軍事委員会主席」に選出された。また、2013年3月の第12期全人大第1回会議において、国家主席・国家中央軍事委員会主席(第7代中華人民共和国主席、第4代中華人民共和国中央軍事委員会主席)に選出されて、習近平政権が誕生した。
▼ 注3
建国100周年(2049年):中国(中華人民共和国)が、1949年10月1日に建国されてからの100周年のこと。歴代の指導部は次の通り。毛沢東(モウ・タクトウ:1949〜1976年)、華国鋒(カ・コクホウ:1976〜1978年)、鄧小平(トウ・ショウヘイ:1978〜1989年)、江沢民(コウ・タクミン:1989〜2002年)、胡錦濤(コ・キントウ:2002〜2012年)、習近平(シュウ・キンペイ:2012年〜)。