エネルギー成長戦略とパラダイムシフト
〔1〕分散エネルギー資源をどう統合し、活用するか
最近、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)をはじめ、蓄電池や電気自動車、燃料電池などの分散エネルギーの導入が急ピッチに進み、「分散エネルギー資源の統合」が大きく注目されるようになってきた。
5年前の東日本大震災(2011年3月11日)後、政府は国家戦略として、従来の大規模集中発電方式から、「分散・再エネ方式」と「デマンドレスポンス」(需給調整)を中心とするエネルギー成長戦略へとパラダイムシフトさせてきた。
これらに加えて、現在、電力システム改革の第2段階である電力小売全面自由化がスタートし、300社近い新電力会社が新たに電力小売市場に参入している。これらの新電力会社に対して事業に参加するための要請事項として、30分間の計画値同時同量注3の電力供給を実現することが責務として課せられており、実現できなければ、罰金としてインバランス料金注4を、一般電気事業者(旧10電力会社)に支払うことになる。
〔2〕電力の需給バランス:すべての本質
前述した、電力の需要と供給を一致させる(バランスをとる)ということは、電力システムにおいて本質的なことであり、そこにすべてが集約されるとも言われている。これらに加えて、図1に示すように、政府は、2030年に向けてエネルギーミックス予測(2015年4月現在)を出している。
図1 2030年時点のエネルギーミックス予測(2015年4月現在)
出所 スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー、石井英雄「デマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合に向けて」、2016年3月9日
図1からわかるように、日本の電力需要は、2013年度のトータルで約1兆kWh(9,666億kWh)の実績となっており、2030年
までに、経済成長率を1.7%/年平均と見込み、電気の使用量が2030年度は橙色の点線まで増加することを想定している。しかし実際には、例えば、低エネルギーハウス(ZEH:Net-Zero Energy Housing)や、低エネルギービル(ZEB:Net Zero Energy Buildings)をはじめ、徹底した多様な省エネ施策が実施され、これらによって電気の使用量を下げて(1,961億kWh程度)、2030年の電力消費を2013年と同じレベルの9,808億kWh程度にすることが、1つの目標となっている。
〔3〕再生可能エネルギーを19〜20%へ
また、図1の右側に示す2030年時点のエネルギーミックスで最も注目されるのは、分散電源とも言われる再エネが19〜20%も占めていることである。これに、省エネ(ネガワット)の17%の削減を加えると、「省エネと再エネ」で約4割の電源構成を達するビジョンとなり、再エネの比重はかなり高まってきている。
このようなエネルギーミックスによってエネルギーの需給バランスをとることは、今後の電力システムの「命」ともいえるほどの重要な要素となっているのである。
このような電力エネルギーシステムの新しいパラダイムである分散資源の増加に伴い、新たな制御システムが求められている。 それは、
(1)デマンド(需要)そのものをコントロール(制御)する「デマンドレスポンス」
(2)太陽光発電の出力制御
(3)蓄電池や電気自動車、自家用発電、燃料電池などの分散資源
などをすべて含めて、いかにうまく統合してバランスをとっていくかということが、現在の大きな課題になってきている。
〔4〕デマンドレスポンスの例
(1)に述べたデマンドレスポンスの仕組みを図2に示す。図2中央に示す「現在需給」(点線内に想定される最大需要を示す)に対し、需要が増大すると発電機が発電(ポジワット)する。一方、アグリゲータなどから需要家に節電指令〔DR(デマンドレスポンス)指令〕があった場合には、需要家はDR節電(ネガワット)を行って電力消費を削減する。
図2 デマンドレスポンス(DR)の仕組み
出所 スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー、石井英雄「デマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合に向けて」、2016年3月9日
このようにポジワットだけでなくネガワットも活用した需給安定の仕組みを構築しようというものである。
▼ 注1
ERAB:Energy Resource Aggregation Business Forum、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス。
▼ 注2
テュフ ラインランド ジャパン(株)主催:「スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー」、2016年3月9日
▼ 注3
同時同量(Balancing):電気は貯めておけないため、電力の需要と供給(需給)を絶えず一致させておくことを同時同量(実同時同量)といい、旧10電力会社(一般電気事業者)では、対応してきた。しかし、規模の小さい新電力の場合、同時同量の実現は困難を伴う。このため電気事業法によって、2016年4月からこの同時同量制が緩和され、瞬時瞬時ではなく、需要者の消費量の計画に基づいて同時同量(計画値同時同量)を「30分単位で達成すればよい」ことが規定された。
▼ 注4
インバランス料金:新電力などは同時同量(計画値同時同量)を達成する義務があるが、例えば不足した場合は、旧10電力会社(一般電気事業者)と取り引きして消費者に電力を安定供給する。このような場合、新電力は一般電気事業者にインバランス料金(補給的に供給する電力料金)を支払うことが、制度上定められている。