[クローズアップ]

DALI照明をKNXで制御するABB社のゲスト用会議室

― 人感センサーと照度センサーで自動調光を実現 ―
2016/06/07
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ABB株式会社の新オフィスへのKNXの導入事例

 以上、ABBのプロフィールとKNXの特長について解説してきたが、次に同社の新オフィスへのKNXの導入事例を紹介しよう。

〔1〕KNXの導入の背景

 ABBは、シーメンスやシュナイダーエレクトリックなどとともに、KNX協会の理事(Executive Board)を務め、また、日本KNX協会の副会長でもあり、国際的にKNXに関するビジネスを積極的に展開している。最近では、日本においてもKNXへの認知度が高まってきた注3こともあり、ABB株式会社は、新オフィスへ移転(2015年10月、東京・品川区大崎)するタイミングに合わせて、KNXビジネスを積極的に展開するため、KNXシステムを、同社のゲスト用会議室にショールームとして導入した。

 これによって、これから、KNXを導入しようとするユーザーにKNXの効果や、具体的な導入方法を体験できる場が提供されることになった。

〔2〕ゲスト用の6つの会議室にKNXを導入

 具体的には、新オフィスにおける、ゲスト用の6つの会議室「01〜06(RM1〜RM6)」にLED照明を制御するKNXシステムを導入した。同システムは、表4に示すように、照明制御用スイッチ、人感センサー、調光機能付きLED照明(DALI照明)などによって構成されている。

表4 ABB株式会社新オフィスへのKNXの導入事例:ゲスト用会議室01〜06(RM1〜RM6)のLED照明をKNXで制御

表4 ABB株式会社新オフィスへのKNXの導入事例:ゲスト用会議室01〜06(RM1〜RM6)のLED照明をKNXで制御

出所 一般社団法人 日本KNX協会「KNX適用事例」より

 写真2に、ABB新オフィスの会議室の天井に導入された照度センサーと人感センサーの写真を示す。指のわずかな動きでも感じるような感度の高い人感センサーによって、室内に人の存在を検知すると即座に応答し、また室内に60秒間、人を検知しない場合は自動消灯となる。さらに、外光を各会議室内にとり込みながら、会議室の机上の照度は、実際に書類を読むために必要な明るさのレベルである「450ルックス」以上に保たれるように自動調光制御が可能となっている。

写真2 ABB株式会社新オフィスの会議室に導入された照度/人感センサー

写真2 ABB株式会社新オフィスの会議室に導入された照度/人感センサー

出所 一般社団法人 日本KNX協会「KNX適用事例」より

〔3〕KNXの通信媒体に30Vの直流を供給

 今回は、まずKNXによるLEDの照明制御を実現しているが、KNXは後からブラインド制御や、セキュリティ制御などの機能を容易に追加できる柔軟性をもっているため、順次機能の拡張が検討されている。

 また、KNXの通信用の媒体に一番多く使用されているのはツィストペアケーブル(銅線)であるが、このケーブル上に直流30Vを乗せて各スイッチ(デバイス)などに電力を供給している。このため、通常使用されている交流100Vの配線(給電)をする必要がないのも大きな特長の1つとなっている。

 今後、ブラインドや空調と連携させて、例えば人が不在となったらブラインドを閉じて、会議室から熱を逃さないようにしながら空調を弱め、省電力を実現するようなことも検討されている。

写真3 会議室の入り口に設置されたマルチスイッチ

写真3 会議室の入り口に設置されたマルチスイッチ

出所 編集部撮影

〔4〕導入された制御盤と各種スイッチ類

 写真3は、ABBのゲスト用会議室の入り口に設置された、照明制御から空調制御、ブラインド制御などを可能にする洗練されたデザインが美しいマルチスイッチの外観である。

 写真4は、ABB新オフィスに導入された「制御盤」(左)と「各種スイッチ類」(右)である。制御盤は、通常は左側のように外見はデザイン性が高く、額縁のような扉で隠されているため、オフィスだけでなくホテルの通路などにも違和感なく設置できる。この扉を開くと右側のように制御盤が設置されている。

写真4 ABB株式会社新オフィスに導入された「制御盤」(左)、「各種スイッチ類」(右)

写真4 ABB株式会社新オフィスに導入された「制御盤」(左)、「各種スイッチ類」(右)

出所 一般社団法人 日本KNX協会「KNX適用事例」より

*    *    *

 これまで見てきたように、KNXは他のプロトコルとの共存が可能であり、しかも国際標準でもあるところから、従来のようなメーカー独自の垂直統合型のシステムから、オープンな水平統合的なホームオートメーション、ビルオートメーションのシステムの実現が可能となる。このため、日本でも、新しいビジネスモデルによる新しい市場が創出できると、大きな期待が寄せられている。

◎取材協力

髙橋 宏行(たかはし ひろゆき)氏

髙橋 宏行(たかはし ひろゆき)氏

ABB株式会社 電力制御機器事業本部 営業部 部長
一般社団法人 日本KNX協会 副会長

 

増野 啓太(ましの けいた)氏

増野 啓太(ましの けいた)氏

ABB株式会社 電力制御機器事業本部 マーケティング部 プロダクトマネージャ

KNX認定チューターとして、ABB株式会社でのKNX認定トレーニングセンター講師も担当。


▼ 注3
2016年3月にドイツで開催された世界最大級のホーム&ビルディングオートメーション関係の展示会「Light + Building 2016」(注)のKNX協会のブースには、日本企業からも多数の訪問者があり、これを契機に日本においてもKNXの引き合いが非常に増えている。

(注)Light + Building 2016:会場:ドイツ・メッセフランクフルト。55カ国から2,600社が出展。来場者数は160カ国から21万6,000名。
http://www.messefrankfurt.com/frankfurt/en/media/technologyproduction/light_building/texte/schlussbericht-light-building-2016-press.html

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