≪1≫具体的な作業手順とLNG基地の巡視点検範囲
〔1〕具体的な作業手順:LNG設備データ
タブレットでは、LNGタンクのレベル(LNG量)や、LNGガスの圧力や流量を現場の計測器から読み取り、端末に手入力(ペン入力)する。
これらをベースに、Office 365クラウドサービスと共有して報告書の作成や、点検データによるLNG設備の予兆管理などを行う。予兆管理とは、点検時に測定し入力したデータをグラフ化して、異常値を発見するなどによって、設備診断を行うことである。また、LNG基地の非常時(例:火災発生時)には、海水を利用して消火するが、そのために必要な消火ポンプの動作記録の採取や、開閉する弁の動作状況の確認なども行い、記録される。
このとき、現場で、人間が目視して発見した写真や動画による不具合の状況(機器のサビ具合やズレ等)を、タブレットのカメラで撮影しクラウドに送って現場事務所と情報共有し、予兆管理にも利用できる。
図1に、従来行われてきた記録用紙への手書きによって行われていたLNG設備巡視点検記録と、タブレットによる電子的なデータ記録方式(Excel)の比較を示す。図1に示すようにタブレットでは、前日のデータと当日のデータが比較できるようになっているため、現場で入力ミス(前日のデータと比較することによる異常値の入力ミス等)を防止できるようになっている。
図1 従来のLNG設備巡視点検記録(手書き)用紙(左)と新タブレット記録(右)の比較
〔出所 東京電力資料「袖ケ浦火力発電所発電所業務ICT化について」〕
写真1は、LNG設備点検時のデータ記録採取の例として、BOGコンプレッサーにおけるデータ採取(例:ガス圧データの採取)のイメージ例を示す。LNG 貯蔵タンク内の液面からは絶えず -130゚Cの超低温ボイルオフガス (BOG:Boil Off Gas注1)が発生しタンク内の圧力を増大させている。そこで、タンク内の圧力をたえず一定値内に保持するために、このボイルオフガスを吸引する必要がある。そのため、LNG ボイルオフガスコンプレッサによって、ボイルオフガスを吸引している。
写真1 LNG設備巡視点検記録採取イメージ
(左)記録用紙に手書きするイメージ(右)タブレット端末に入力するイメージ
〔出所 東京電力フュエル&パワー資料「袖ケ浦火力発電所発電所業務ICT化について」〕
〔2〕LNG基地の巡視点検範囲
それでは、具体的にどれほどの範囲でLNG基地の各種データを採取しているのだろうか。広大な袖ケ浦火力発電所におけるLNG基地の巡視点検範囲は、図2に示すように、①構内エリア、②隣接エリア、③導管エリアに分けて行われている。
図2 LNG設備の巡視点検範囲
〔出所 東京電力フュエル&パワー資料「袖ケ浦火力発電所発電所業務ICT化について」〕
〔3〕電子データはPDF化されクラウドへ格納
LNG基地内を、巡視点検して作成される報告書は、図3に示すように、従来は紙への手書きで捺印方式であったが、タブレット端末に収集した電子データ(Excel)は電子的に確認(サイン)され、最終的にはPDF化され、Office365と連携してマイクロソフトのクラウドから所内サーバに格納される。
このとき、タブレットとマイクロソフトのクラウドとの間の通信は、KDDIのLTE回線を使用して行われている。袖ケ浦火力発電所構内では、建屋の壁が厚いことや鉄製の機器が多いところから電波障害があるため、Wi-FiではなくLTEが使用されている。
図3 巡視点検報告書の承認方法や保存方法などの比較(紙⇒電子データ⇒PDF保存)
〔出所 東京電力フュエル&パワー資料「袖ケ浦火力発電所発電所業務ICT化について」〕
(注1)BOG:Boil Off Gas 、LNG のような極低温(-162℃)液体を貯蔵する場合に、外部からの自然に入ってくる熱などによって気化するガスのこと。