緊急時対策所における5つの最新ITシステムの活用
一方、福島第一原子力発電所の事故においては、発電所と本社間の情報共有だけでなく、国や関係機関に対しても、情報の提供が不十分であったことから、これらの教訓を踏まえて、柏崎刈羽原子力発電所の指令室でもある緊急時対策所注4の本部室(写真6)では、独自に次のようなITシステム(ツール)が開発され、活用されている。
写真6 ITシステムを駆使したガラス張りで見通しのよい本部室
出所 編集部撮影
- チャットシステム(発話記録ツール)の開発
- 重要情報共有ツール(DEC管理表など)の開発
- 社外(自治体)派遣者との情報共有ツールの開発・整備
- 聖徳太子システムの開発
- 手書きパッドの開発の開発
〔1〕チャットシステム(発話記録ツール)
ネットワーク経由で、複数人がリアルタイムに情報(メッセージ)をやり取りするチャットシステム(写真7)では、緊急時に対応が求められる現場のキーマンの発言内容(メッセージ)を、関係者が即時に共有するシステムである。発話内容が時系列にすべて表示される「全体」を閲覧できるほか、特定の話者(例:所長)に絞って閲覧できるメニューも用意されている。
写真7 チャットシステムの画面例
出所 編集部撮影
〔2〕重要情報共有ツール(DEC管理表など)
また、原子力プラントの主要なデータは、通信設備(ERSS注5:緊急時対策支援システム)によって、国や本社、緊急時対策所にリアルタイムに送信されているが、万一このような手段を喪失した場合においても、重要なパラメータ(データ)のフォーマットを策定し、共有できるようにしている。柏崎刈羽では、DEC注6管理表(安全設備の状態一覧)と呼ばれている(写真8)。
写真8 DEC管理表画面の例(6号機の例)
出所 編集部撮影
〔3〕社外(自治体)派遣者等への情報提供(タブレット端末)
さらに、自治体へ原子力プラント情報の説明を行うため、東京電力の担当者が周辺自治体に派遣される。これらの派遣者に、緊急時対策所と同程度の情報共有を行うため、タブレット端末やスマートフォンに、DECやチャットなどを、直接メールで送付する。
〔4〕聖徳太子システム
このシステムは、1〜7号機の各号機の班長と当直長の会話内容を、本部長が音声でリアルタイムに確認できるシステムである(写真9)。このシステムによって次のことが可能になる。
写真9 聖徳太子システム:本部長席に設置された1〜7号機のスピーカー群
出所 編集部撮影
- 各号機の班長と当直長は、通常通りの対応を行う(PHSや携帯電話はつなぎっぱなし)。
- 各号機の班長と当直長の会話が、本部長席の前に設置されたスピーカーから聞こえてくる(写真9)。
- 本部長がその会話を聞くことによって、EAL注7・DECなどを先読みして考えることができる。
〔5〕手書きパッドの開発
また、本部情報の共有による速報性を向上させるため、手書きパッドが開発された(写真10)。これによって、当直長からの原子力プラント状況の報告内容を、各号機班長が手書きでメモを取る。当該の手書きパッドのメモ内容は、本部室の本部長にタイムリーに提供される。これによって、当該のメモ書きを本部長が確認し、原子力プラントの状況を把握するとともに、対応の先読みを行う。
写真10 手書きパッドの画面例
出所 編集部撮影
なお、緊急時対策本部には、このほか、ホットライン室に、新潟県防災無線、新潟県海上保安部、柏崎消防本部、柏崎警察署をはじめ柏崎市、刈羽村などとのホットライン電話やFAX(有線)が用意されている。さらに、緊急時の携帯電話端末も100台規模で用意されている。また、写真11に示すように、柏崎刈羽原子力発電所の各種マニュアル(1〜7号機)も整備され、閲覧できるようになっている。
写真11 柏崎刈羽原子力発電所の各種マニュアル書庫の一部(左)と拡大写真(右)
出所 編集部撮影
▼ 注4
緊急時対策所:中越沖地震の反省を踏まえて設置された「免震重要棟」内に設置されている。
▼ 注5
ERSS:Emergency Re-sponse Support System
▼ 注6
DEC:Design Extension Codition、設計拡張状態(設計ベースを超える状態)
▼ 注7
EAL:Emergency Action Level、原子力発電所 緊急時活動レベル