[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力 取引所」の役割と課題 ≪第3回:最終回≫

─自由化で先行する欧米の電力取引所の最新動向─
2014/09/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

2016 年からの一般家庭への電力小売の自由化を目前に控え、新電力への参入が300 社を超える(本文注1)など急速に増大してきたこともあって、一般社団法人 日本卸電力取引所(以下、JEPX)が急速に注目を集めている。そこで、第1 回(本誌2014 年7 月号)ではJEPX の設立の目的からその役割などを、第2 回(本誌2014 年8 月号)では「電力小売の完全自由化」後のビジネス展開をはじめ、電力の卸市場やJEPX の市場領域、今後のビジネス展開などを解説した。最終回にあたる第3 回では、日本に先行する欧米の卸電力市場の状況を概説する。なお本記事は、一般社団法人 日本卸電力取引所 総務部長である岸本尚毅氏への取材をベースにまとめたものである。

1. 欧米の卸電力市場の動向

  一般に電力の取引は、図1に示すように、

(1)取引所取引(卸電力取引所を介した取引。図1下)
(2)相対取引(図1上。当事者間の売買。OTC取引注2とも言われる)
の2つに大別される。
このうち、取引所取引は、一般的に、卸電力市場(図1の先物取引/先渡し取引~時間前取引)とリアルタイム市場(予備力市場)に分類される。
 (1)卸電力市場では、売り手は発電事業者等であり、買い手は一部の大口需要家および小売事業者等である。
 (2)リアルタイム市場では、小売事業者が卸市場等で調達した発電量(A)と、小売事業者が供給する需要家の消費電力量(B)のリアルタイムにおける差異(=A-B)を調整するために必要な電力が取引される。
また、卸電力市場は、短期(スポット取引~リアルタイム取引)と長期(先物取引/先渡取引)の市場に区分される(図1)。
1カ月以上にわたる引き渡し期間がある商品は、長期(数年にわたる場合もある)の市場である「先渡市場」で取引され、短期の商品は、「スポット取引および当日取引注3」で取引される。
 長期の先渡の例として、発電事業者が新たに発電所を建設し、卸市場に売るに際して、卸価格下落のリスクを避ける目的で、建設のための固定費を回収する期間も考慮して先渡取引を利用することもあり、相対の先渡取引にはかなり長期(例:10年超)になるものもある。
 「予備力市場」については、例えばドイツの例を挙げると次のように分類されている。
(1)30秒以内に必要出力に達する調整力の市場(プライマリー予備力市場)
(2)5分以内に必要出力に達する調整力の市場(セカンダリー予備力市場)
(3)15分以内に必要出力に達する調整力の市場(ミニット予備力市場)
 なお、英国やフランスなどのように、「予備力市場」ではなく、需給調整市場と相対契約(個別契約)によって調整電源を確保する国もある注4

◆図1 出所
〔経済産業省 第6 回システム改革専門委員会、2012 年5 月31 日 資料3、http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/007_03_00.pdf〕。
 
▼注1
2014年8月19日現在、323社。経済産業省 資源エネルギー庁 特定規模電気事業者連絡先一覧(http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/operators_list/
 
▼注2
OTC取引:OTCはOver TheCounter の略。取引所取引と同条件または異なる仕様の相対(あいたい)取引。決済を取引所が提供する精算機能を利用して行う場合もある。
 
▼注3
当日取引:運用当日に想定外の事態などで前日までに確保していた供給力に不足または余剰が生じた場合に調整するための取引。
 
 
▼注4
参照文献:上原美鈴「需給調整市場と予備力の欧米比較」『海外電力』2013年11月号。
 

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