セルラーLPWAを実現する4つの要求条件
次に、M2M/IoTを実現するためにセルラーIoT(セルラーLPWA)に求められる、
- 低コスト化
- 低消費電力化
- カバレッジ拡張(長距離通信)
- 端末の大量接続
などの要求条件が、どのような技術によって実現されているかを見てみよう。
例えば、基地局側は、既存のモバイル基地局(LTE基地局)にセルラーIoT(Cat-M1やNB-IoT)対応のソフトウェアを搭載するだけでLPWA環境を構築できる(例:エリクソンの場合)ため、主に端末側において、次に示すような〔1〕〜〔4〕の要求条件が重要となる。
〔1〕低コスト化のための要件
(1)半二重通信
FDD注1においても、基地局と端末間のデータの送受信を半二重通信注2にすることによって、端末側の発信器の「送信回路(上り)と受信回路(下り)を共通化」でき、さらに多重化装置(デュプレクサ:上り信号と下り信号を多重化する装置)も不要となるため、端末の低コスト化が可能となる(ただし、上りと下りの発信周波数の切り替え時間が必要となる)。
(2)送受信の周波数帯域幅を削減
送受信の周波数帯域幅(チャネル帯域幅、LTEは最大20MHz幅を使用)を、
①CAT-M1注3では、1.4MHz幅(LTEの最大値の10分の1以下に削減)
②NB-IoTでは、200kHz幅(LTEの最大値の100分の1に削減。実質180kHz幅を使用)
に削減することによって、通信回路を簡略化している。なお、下りの変調方式はOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)であり、LTEと同じサブキャリア間隔15kHzを採用しているため、
①NB-IoTのサブキャリア数は、12本(=180kHz÷15kHz)
②CAT-M1のサブキャリア数は、NB-IoTの6倍で72本(=実際の占有帯域幅1.08MHz÷15kHz)
となっている。
(3)単一アンテナ
アンテナを1本(MIMOやダイバーシチはなし)注4にすることによってアンテナ回路を削減している(受信アンテナの減少による受信品質の劣化は、カバレッジ拡張機能などで補償)。
(4)最大伝送速度の低減
次のように、端末の最大伝送速度を大幅に低減することによって、必要なメモリ容量の削減や回路の簡略化を実現している注5。
①CAT-M1:上り1Mbps/下り800kbps
②NB-IoT:上り62kbps/下り21kbps
〔2〕低消費電力化
(1)電力節減モード(PSM:リリース12で規定)
PSM(Power Saving Mode、電力節減モード)において端末でデータを受信できるのは、
①端末の位置登録時
②端末からのデータ送信時
のタイミング後の指定された期間のみとなっている。それ以外の期間は、電力節減モード(PSM)の受信機能が、例えば24時間休息している状態になり、その間データの受信は不可能となる。
ただし、端末側は常に送信可能となっており、送信すべきデータがあればいつでも送信できる。
(2)拡張DRX注6(間欠受信)
端末は、データの送受信を行っているコネクテッド状態と、受信待ち受けに相当するアイドル状態をもつ(上記のPSMはそれに追加された状態)。このそれぞれの状態の中でも、定期的な受信可能時間以外は、DRXの小休止時間が設けられている。既存のDRX(リリース12以前)は、端末のアイドル状態では通常2.56秒、コネクテッド状態では最大2.56秒であった。これに対し拡張DRXでは、
①アイドル状態:CAT-M1では最大43.7分、NB-IoTでは最大174分
②コネクテッド状態:最大10.24秒
と大幅に拡張して、電力の節電を実現している。
〔3〕カバレッジ拡張(長距離通信)
また、セルラーIoT(CAT-M1、NB-IoT)における通信距離(カバレッジ)は、既存のLTE(MBB:Mobile Broad Band、通常半径数㎞のカバレッジ)に比べて、図5に示すように、
- Cat-M1の場合:LTEの5.6倍(15dB)の距離
- NB-IoTの場合:LTEの10倍(20dB)の距離(最大約40km)
となり、平均7倍程度に距離を延ばせる。
図5 セルラーIoTのカバレッジ(通信距離)実現(平均7倍)
MBB:Mobile Broad Band、従来のLTE等のモバイルブロードバンド(モバイル広帯域通信)
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
このセルラーの場合のカバレッジ拡張という意味は、距離を延ばすという意味よりも、街における地下などに設置されたスマートメーターまで容易に電波が届いて通信を可能とする、あるいはビルのコンクリートの壁を越えて通信できるようにするという意味合いが強い。
〔4〕端末の大量接続
さらに、モバイル通信における1セル(1つのキャリア)当たりで収容可能な端末(デバイス)数は、下記の条件において、
- NB-IoTデバイスの場合:20万個/キャリア(周波数帯域200kHz幅)
- Cat-M1デバイスの場合:100万個/キャリア以上(周波数帯域1.4MHz幅)
となっており、LTEの場合に比べてケタ違いに多くの端末が接続できる。
ここでの条件とは、次のような内容である。
- 全体の80%が端末からの送信で、データサイズが20〜200バイト(α=2.5のパレート分布)
- データ発生周期は1日(1回)が40%、2時間が40%、1時間が15%、30分が5%
- また全体の20%が基地局からの送信で、データサイズが20バイト固定、データ発生周期は1日が40%、2時間が40%、1時間が15%、30分が5%である。
- 基地局間の距離は500mとなっている。
▼ 注1
FDD:Frequency Division Duplex、周波数分割複信。送信(上り)と受信(下り)に別々の周波数を割り当てて通信を行う通信技術。
▼ 注2
半二重通信:時間的に送信(上り)と受信(下り)を交互に行う通信形態のこと。これに対して、時間的に送信と受信を同時に行う通信形態のことを全二重通信という。
▼ 注3
Cat-M1:3GPPでは「LTE Cat-M1」あるいはeMTC(Enhanced Machine Type Communications)とも呼ばれる。
▼ 注4
MIMO:Multiple Input Multiple Output、多入力・多出力。複数のアンテナを使用して同時に異なるデータ系列を送信し、受信時に合成することで通信の高速化を図る技術。
ダイバーシチ:複数の信号を選択あるいは合成することによって、受信レベルの信号の落込みを軽減する方法。
▼ 注5
いずれも上りよりも下りのほうが伝送速度が遅いのは、下りのほうがオーバーヘッド(付加的な処理)が大きいからである。通常の最大20MHz幅のLTEの場合は、下りの速度のほうが大きくなる。
▼ 注6
DRX:Discontinuous Reception、間欠受信