セルラーIoTの事例と国際的な動向
後述するように、国際的にセルラーIoT(NB-IoT)のデモが活発に行われているが、ここでは「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)上海2016」(6月28日〜7月1日の4日間)におけるデモの例を紹介する。
〔1〕「NB-IoT」に準拠した、世界初のデモ
図6に、チャイナ・モバイル(中国移動)とエリクソン、インテルの3社が「MWC上海2016」で行った、最新のセルラーIoT技術「NB-IoT」に準拠した、世界初のアプリケーション・デモンストレーション「環境モニタリングのデモ」(エンドツーエンド)の構成を示す注8。
図6 最新のセルラーIoT技術(NB-IoT)による世界初のエンド・ツー・エンドデモ:環境モニタリングの事例
WiMo:Wireless Mobile Multimedia Transmission Protocol、チャイナモバイル(中国移動)が中心となり規格化された通信プロトコル。モバイル端末で受信した動画などを大画面に映し出すプロトコル
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
図6では、まず、チャイナ・モバイルのアプリケーションを用いて、IoTデバイスである温度・湿度センサーからの情報を収集する。その情報をNB-IoTに準拠したインテルの「XMM 7115モデム」とEdison AP(アクセポイント)を用いて、エリクソンの3Gと4G(LTE)両方の通信方式をサポートするマルチスタンダード基地局「RBS 6000」に送信する。
さらに、エリクソンのコアネットワークを経由して、チャイナ・モバイルのクラウドに接続する。ユーザーは、タブレット端末によってクラウドから情報を得て、見える化したり制御したりするデモが行われた。
〔2〕セルラー系IoTに関する世界動向(GSA、2016年6月)
LPWAに関しては、国際的な取り組みも活発化している。
ここでは、2016年6月にセルラー系IoT(LPWA)の動向について、GSA(Global mobile Suppliers Association)が発表している内容を紹介する。
- 国際的には、24事業者がNB-IoT導入の意向を表明している。
- Cat-1に関しては7事業者が商用化、3事業者がトライアルをコミットしている。
- 2事業者がCat-M1のトライアル実施、1事業者が計画中である。
- 9事業者がpre-NB-IoT標準のトライアルを実施している。
- 2017年末までに、20のネットワークでNB-IoTの商用開始が予測されている。
- GSMA注9は、同協会内にLPWAによってIoTを加速化するためのプロジェクト「モバイルIoTイニシアチブ」を設置(2015年8月)。さらに、このプロジェクト内にLPWAを具体的に推進するため、「GSMA NB-IoTフォーラム」を設立(2015年12月)し、NB-IoT技術の普及に向けて実証試験などを目的に推進している。
GSMAには、すでに世界の主要な通信事業者や通信機器ベンダなど約50社が参加(表2)し、LPWAに関するホワイトペーパーも発表している注10。
表2 GSMA NB-IoTフォーラムのメンバー:49社(2016年11月時点)
出所 http://www.gsma.com/connectedliving/narrow-band-internet-of-things-nb-iot/
〔3〕IoT市場の動向レポート
このような3GPPにおけるLTEベースのCat-M1やNB-IoTの標準化を背景に、英国・ロンドンに本部を置く、IoT、M2M、ビッグデータ関係の国際的な調査会社「Machina Research」は、表3のような調査結果を発表した。今後の展開にもよるが、表3におけるセルラー系LPWAと非セルラー系LPWAの市場動向が興味深い。
表3 LTEベースのCat-M1やNB-IoTの標準化による市場シナリオ予測の変化(赤字に注意)
出所 エリクソン・ジャパン「LPWAの技術と市場動向」、2016年10月11日
原典: Machina Research, “LPWA outlook update: the new 3GPP standards strengthen the MNOs’ hand”, Jul. 2016
Cat-M1やNB-IoTの登場(前回の調査時はCat-M1、NB-IoTは標準化が完了していなかった)によって、従来の調査結果と今回の調査結果を比較すると、表3に示すように、今後、非セルラー系LPWAに比べて、セルラー系LPWAの市場のほうがやや有利に展開を示していくと予測されている。
しかし、今後、非セルラー系LPWAの普及の勢いも含めて考慮すると、動向は予断を許さない状況にあるといえる。引き続き注目していく必要があろう。
▼ 注9
・GSMA:GSM Association、携帯通信事業関連の業界団体(約800社が参加)。
・GSMA NB-IoT Forum:GSM Association Narrow Band - Internet of Things、GSM協会(携帯通信事業者関連の業界団体)に設置されたNB-IoT Forum。第2世代(2G)の通信方式「GSM」(Global System for Mobile communications)の普及を目的として1995年に設立された。
・GSA:Global mobile Supplier Association、携帯関連(3GPP系)の技術動向に関する調査団体でグローバルな通信機器ベンダが参加。
▼ 注10
3GPP Low Power Wide Area Technologies White Paper、2016年10月7日