新電力会社としてのHOPEの役割
〔1〕エコタウンのエネルギーマネジメントおよび保守管理業務と小売電気事業
前述したように、2012年10月、東松島市および社会福祉協議会、商工会によって設立された、一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)は、エコタウンの管理運営とは別に、2016年4月の電力小売全面自由化のスタートとともに、登録小売電気事業者(新電力会社)としても事業を開始している注11。
図9に、東松島市スマート防災エコタウン事業運営概要図を示すが、HOPEは登録小売電気事業者および登録特定送配電事業者として、東松島市から委託されて(みなし設置者)、スマート防災エコタウンのエネルギーマネジメント業務および保守管理業務を行っている。
図9 東松島市スマート防災エコタウン事業運営概要図
出所 「再エネを地域で活かし使う~東松島市の挑戦~」東松島市復興政策部復興政策課/一般社団法人東松島みらいとし機構、2016.11.21
具体的には、スマート防災エコタウンにおける各顧客からの電力料金の請求、設備やシステムの保守管理、電源系統図の常時監視、あるいは一般電力会社との常時バックアップ供給契約のほか、JEPX(日本卸電力取引所)との取引も行っている。
〔2〕HOPEの事業方針
HOPEの事業方針は、新電力事業を通じて、経済、エネルギー、人の循環を創生し、地域の活性化を図ることである。その事業内容は、
- 地元資源を活用した地元の電気を購入する
- 地元の産業や市民に安価な電力を安定供給する
- 事業で地元雇用を生み、得た利益で地域活性化を図る
などである。
〔3〕新電力「HOPE」の電力供給実績
このHOPEの新電力会社のスタートに当たっては、東松島市の商工会、社会福祉協議会、JAいしのまき、JFみやぎ関係者の立会いのもとに、東松島市とHOPEの間で、2016年3月2日に協定が締結された。この協定に基づいて、東松島市の主要施設については、使用している電力はすべて、東北電力からHOPEに切り替えられた。
その他の民間については、農協や漁業、さらに市内の工業団地に進出している企業も、かなり電力を使う施設をもっているので、順次HOPEに切り替えてもらっている。
このような背景のもと、HOPEの電力契約は、2016年11月21現在、次のようになっている。
- 公共施設:市庁舎、小中学校、幼稚園、保育所、運動公園、給食センター、市民センターなどが契約し、供給地点数は35箇所、契約容量は3.5MW
- 民間事業所:農協施設、漁協施設、電子部品製造工場、老人福祉施設、食品工場、印刷工場等が契約し、供給地点数は102箇所、契約容量は4.5MW
契約電力の合計は8.0MWであるが、その後も順調に増え、2017年1月1日時点では、8.5MWに達する見込みとなっている。
〔4〕今後の東松島市スマート防災
エコタウンの運用と経済
同エコタウンは、平成27(2015)年度までにハード/ソフト的なシステム構築・設置を完了し、平成28(2016)年度からは実証実験のフェーズに入っている。総事業費は約5億円。環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業)を活用し、3/4の補助を受け、同市は1/4を負担している。
今後は、エコタウンの運用を継続していくと同時に、投資金額の回収(メンテナンス費用含む)を行っていく。回収には、本エリアの電力使用料金(東北電力同等額)で発生した収益を柱として、15〜20年が見込まれている。
東松島スマート防災エコタウンの各設備
写真3 左から太陽光発電用のパワーコンディショナー(PCS)、受変電設備、バイオディーゼル非常用発電機(400kW)
* * *
3.11東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東松島市の現地取材をするなかで、復興に向けて、マイクログリッドの果たす役割の大きさを実感した。東松島市のケースは、全国的にも先進的な取り組みである。
今、日本の各所でVPP(仮想発電所)の実証実験が開始されているが、東松島市におけるHOPEの活躍と取り組みは、まさに従来の集中型電源中心から分散型電源へ脱皮させる新しい電力システム(VPP)につながるものである。さらに、同市の復興に伴うエネルギーの地産地消の実践は、次世代へ続く地域経済の活性化と雇用の創出につながる。
(終わり)
◎取材協力(敬称略)
佐藤 淳(さとう じゅん)
宮城県東松島市 復興政策部 復興政策課 リーディングプロジェクト推進班主査
渥美 裕介(あつみ ゆうすけ)
一般社団法人 東松島みらいとし機構 新電力事業部
沢尻 由央(さわじり ゆきひさ)
一般社団法人 東松島みらいとし機構 新電力事業部
▼ 注11
HOPE設立の目的は、東松島市復興まちづくり計画に基づく各種プロジェクトの事業化促進、持続可能な「環境未来都市」構想の推進であり、「産・学・官・民」が連携した復興に関する中間支援組織という位置づけとなっている。市外を含む企業、研究機関、NPO法人等50社が加入している。