日本の海流エネルギー発電の研究開発
このような国際的な動向を背景に、日本の海洋エネルギーに関する研究開発も活発化してきており、海洋エネルギー発電に関して、NEDOを中心に海流発電、波力発電、海洋温度差発電などの多様な技術開発が行われている(表3)。
表3 海洋エネルギー発電システムの種類と実証研究例(NEDO)
※1 ラック&ピニオン(Rack and Pinion):歯車の一種で、ピニオン(円形歯車)とラック(歯を付けた平板状の棒)を組み合わせたもの。回転力を直線の動きに変換する歯車。
出所 各種資料より編集部作成
特に、海に囲まれた日本の沿岸付近には、世界的にも有数のエネルギーをもつ黒潮などの強い海流が、年間を通じて安定して流れている。この海流は、太陽光や風力に比べて昼夜や季節による変動が少ない(天候や風向に依存しない)ことから、離島や電力システムの系統連系(新たな海底ケーブルの敷設など)の制約によって再エネの導入が困難な地域におけるエネルギー源として、大きな可能性をもっている。
NEDO事業の7年間にわたる水中浮遊式海流発電の研究開発
〔1〕2017年度は海洋エネルギー発電技術研究開発プロジェクトの最終年度
新エネルギーの開発を推進するNEDOは、表4に示すように、2011年度から2017年度の7年間にわたって海洋エネルギー発電技術研究開発を行っている。2017年度はその最終年度であり、その予算額は6億円(2016年度は10億円)となっている。
表4 NEDOの海洋エネルギー技術研究開発の内容
出所 各種資料をもと編集部作成
同プロジェクトの中で、水中浮遊式海流発電については、図1に示すように、
(1)次世代海洋エネルギー発電技術研究開発(2011〜2014年度)
(2)海洋エネルギー発電システム実証研究(2014〜2017年度)
として取り組んできた。
図1 海流発電の研究開発の流れ(2011〜2014年度:研究開発、2014〜2017年度:実証研究)
出所 NEDO:田窪祐子「世界初、実海域での海流エネルギー発電の実証試験を実施へ」、2017年7月7日
〔2〕海流発電システム「かいりゅう」のプロフィール
次に、今回発表された海流発電システム「かいりゅう」について見てみよう。
NEDOとIHIによって開発された海流発電システム「かいりゅう」は、図2、写真1に示すような「幅約20m×全長約20m」(GFRP注3製タービン翼:直径約11m)、総重量330トンの大きさの100kW級実証機であり、IHIの横浜事業所(神奈川県横浜市)で完成され、2017年7月9日、鹿児島県十島村口之島沖に向かって横浜から出航した(仕様の詳細は表5参照)。
図2 100kW実証実験機「かいりゅう」の構成
出所 (株)IHI「水中浮遊式海流発電」資料、2017年7月7日
写真1 運搬船の台船に載った実際の実証機「かいりゅう」
出所 編集部撮影
表5 水中浮遊式海流発電の実証研究の内容
出所 各種資料をもとに編集部作成
同発電システムは、
(1)日本近海の黒潮を利用した世界初の海流発電システム
(2)自律型姿勢制御システム(自分で姿勢制御等が行える機能)を搭載
(3)波浪などの影響を受けにくい浮遊式係留(大きな津波にも耐えられる構成)
などの特長をもっている。
また、図2に示すように、図2の左右の筒には、各50kWの交流発電機(発電電圧は400V)が1基ずつ格納されているほか、各種の計測器が格納されている。さらに、中央の筒には変電設備(変圧器・送電装置)が搭載されている。交流発電機で発電された400Vの電圧は、変電設備で6,600Vに昇圧され、約2kmの長さの送電線(海底ケーブル)を経由して洋上の台船の受電設備へ送電される。
「かいりゅう」は、2017年8月中旬から、鹿児島県十島村口之島沖北側の離岸距離5kmの水深約100mの黒潮海域に設置され、実証機の発電性能や姿勢制御システムの検証が行われる。これは、実際の海流を利用した100kW規模の海流発電(水中浮遊式海流発電システム)としては世界初の実証試験であり、IHIは、2020年に実用化することを目指している。
さらに将来(2020年代)には、次世代機として同システムの20倍の発電出力をもつ2,000kW(1,000kW×2基)の、一般家庭約3,000軒の電力供給が可能な発電システムの構想も発表された。
▼ 注3
GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics、ガラス繊維強化プラスチック。ガラス繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた、軽量で耐久性のよい複合材料。「かいりゅう」のタービン翼(羽の角度調整の機能をもつ)は3枚翼よりも効率・性能の良い2枚翼の設計(図2参照)となっている。