「かいりゅう」試験場所と実証スケジュール
今回完成した「かいりゅう」の実証試験は、内閣府総合海洋政策推進事務局の海洋再生可能エネルギー実証フィールドとして選定注4された、鹿児島県十島村口之島(図3)で行われるが、黒潮が流れる口之島北側海域の沖合約5km、水深100mの地点に実証機を設置して行われる。
図3 海流発電の実証試験の場所(鹿児島県十島村口之島沖):→印は黒潮の流れ
出典 左図:NEDO海洋エネルギーポータルサイト、右図:海上保安庁海洋台帳
出所 NEDO・(株)IHI「世界初、実海域での海流エネルギー発電の実証試験を実施へ」、2017年7月7日
「かいりゅう」は、図4に示すように、海底に設置したシンカー注5から浮体式発電装置を海中に係留し、海流の流れによって、タービン水車を回転させる(1分間に15回転程度)ことで発電する仕組みとなっている。
図4 海流発電ファーム(群)のイメージ(左)と「たこ揚げ」のように黒潮の流れの中に発電装置を浮かせて発電するイメージ(右)
出所 (株)IHI「水中浮遊式海流発電」資料、2017年7月7日
「かいりゅう」の実証試験スケジュールは、2017年7月末に野間岬(鹿児島県南さつま市)沖合にある甑海峡で1週間程度の曳航試験注6が行われた後、8月中旬に鹿児島県十島村口之島沖で1週間程度の係留試験(実証実験)が実施される。試験終了後には、再びIHI横浜事業所に戻ってくる計画である。
海流発電システムの特徴
ここまで解説してきた、水中浮遊式海流発電システムの主な特徴を整理してみよう。
(1)昼夜や季節による変動が少ない安定した海流エネルギーを、長期的にかつ連続的に利用することによって、年間60%以上(太陽光では10〜15%程度)の高い設備利用率での発電が可能である。
(2)海底から係留(つなぎとめること)して海中に浮遊させることによって、1,000m級の大水深域での設置にも対応可能。このため、波浪の影響を受けない(津波の影響を受けない)安定した運用が可能であり、船舶の航行にも支障を及ぼさず、設置可能海域を広く設定することができる。
(3)左右2基の水中タービン水車(GFRPタービン翼)を、互いに逆方向に回転させることによって、タービンの回転に伴う回転トルクを相殺できるため、海中で安定した姿勢を保持し、高い効率で発電を行うことができる。
(4)浮力の調整ができるため、故障の場合や保守整備時には、必要に応じて海上に浮上させることで、メンテナンスや修理を容易に行うことができる。
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以上、世界初の出力100kW海流発電システムの仕様と実証試験内容を見てきたが、豊富な海洋資源をもつ日本も、ようやく本格的なクリーンな海洋エネルギーによる再エネ発電への取り組みが活発化してきた。
これによって、欧州勢やアジア勢に遅れをとってきた日本が、これらの国を超えた海洋エネルギーによる発電システムを開発し、国内への導入はもとより、大きな輸出技術の1つとしても成長していくことを期待したい。
▼ 注4
内閣府総合海洋政策推進事務局「海洋再生可能エネルギー実証フィールドの選定について」、平成29(2017)年6月29日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/energy/201706/testfield20170629.html
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/energy/201706/testfield20170629.pdf
▼ 注5
シンカー(Sinker):試験機(「かいりゅう」)を固定するための方法の1つで、錘(おもり。シンカー)の自重によって固定する方法。今回の実証試験では、海底に設置したシンカーに係留索(船舶を係留するために使う綱)を接続し、その先に実証機を接続する。
▼ 注6
曳航試運転:実証試験前の調整として、野間岬沖で、船舶で装置(「かいりゅう」)を曳航することで、黒潮に模した水流を発生させ、海中での挙動の確認を行う。