[特集]

200GWの導入を目指す太陽光発電の「2050年長期ビジョン」

― 太陽光発電協会が公開! 2019年問題と2032年問題にも言及 ―
2017/08/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

太陽光発電の設備導入量「200GW」の意味

〔1〕発電時にCO2フリー電源比率を9割に高める必要性

 太陽光発電協会が発行した長期ビジョン「PV OUTLOOK 2050」では、図6に示すように、2050年時点における太陽光発電の稼働量を200GW(AC出力ベース)としている。しかし、この数値は最終到達点ではなく、現状の化石エネルギーに依存した発電から日本が脱却し、今後、持続可能な社会に至るまでの通過点の1つでしかないとい位置づけられている。

図6 太陽光発電の最終到達点200GWを大きく超えて

図6 太陽光発電の最終到達点200GWを大きく超えて

1GW=100万kWであるから200GW=200×100万kW
出所 一般社団法人 太陽光発電協会:「JPEA PV OUTLOOK〜太陽光発電2050年の黎明 〜」、2017年6月

 前出の表1に示したように、政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減する目標を掲げているが、この目標を達成するためには、発電時にCO2を排出しない(CO2フリー)電源比率を、9割に高める必要があるとされている〔環境省の長期低炭素ビジョン(2017年3月)より〕注6

 CO2フリーの電源比率9割を実現するためには、図6に示すように、太陽光発電の導入量として最低限200GWが求められるが、温室効果ガスの排出量を80%削減する目標を達成するには、実際にはそれよりも高い導入量が求められる可能性が高い。ここに示した、太陽光発電の設備導入量の「200GW」は、現状の国内総電力供給量の2割程度に相当する規模となっている(2017年度以降、設備利用率は15%)。

〔2〕「200GW」超が求められる3つの理由

 太陽光発電の累積稼働容量として200GWを超える電力量が求められる理由は、次の3つに集約される。

(1)「脱炭素社会」の実現

 実際にはパリ協定の実現であり、21世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出を実質ゼロする。日本政府の目標として、2050年までに温室効果ガス排出の80%削減を目指している。

(2)「エネルギー自給率」の大幅な向上

 日本の現状のエネルギー自給率は6%(2014年エネルギー白書注7)であり、94%が海外から輸入している。日本が海外から輸入しているエネルギーの金額は、年間20兆円程度にものぼっており(2015年:財務省統計)、エネルギー自給率の向上が強く求められている。

(3)「持続可能な社会」の実現

 現行のエネルギー基本計画注8におけるエネルギー政策は、安全性(Safety)を前提としたうえで、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一として、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るため、最大限の取り組みを行う「3E+S」注9を基本としている(図7)。

図7 持続可能(Sustainability)なエネルギーの需給構造(3E+Sから3E+2Sへ)

図7 持続可能(Sustainability)なエネルギーの需給構造(3E+Sから3E+2Sへ)

出所 一般社団法人 太陽光発電協会:「JPEA PV OUTLOOK〜 太陽光発電2050年の黎明 〜」、2017年6月を参考に編集部作成

 しかし、次世代に、負の遺産「資源の枯渇や大量の温暖化ガス、有害で危険な廃棄物」などを残すようなエネルギー需給構造は持続可能とはいえない。そこで長期的視点から、これらを考慮した持続可能(Sustainability)なエネルギーの需給構造「3E+2S」を確立することが、現世代の重要な責務となってきている。

 このように、太陽光発電への期待が大きいのは、表2に示すように、他の再生可能エネルギー(以下、再エネ)に比べて、無料な純国産のエネルギー資源であることや、国内のどの地域にも導入可能であるなど地域遍在性が少ないこと、あるいはコスト競争力が向上していることなどが挙げられている。

表2 太陽光発電への期待と特長

表2 太陽光発電への期待と特長

出所 一般社団法人 太陽光発電協会:「JPEA PV OUTLOOK〜 太陽光発電2050年の黎明 〜」、2017年6月

〔3〕2050年に200GWが可能な技術的根拠

 2050年における太陽光発電システムの累積稼働容量として200GWが可能となる技術的な根拠を見てみると、次のように整理できる。

(1)国際的に見て、再エネ先進国や地域においては、消費電力に占める自然変動電源(再エネ電源)の比率が年間平均で40%を超えた地域も存在し、さらに50%を超えることも十分可能であるとされている〔OECD/IEA:Getting Wind and Sun onto the Grid(2017年)注10 〕。仮に、日本において太陽光200GW、風力75GWを導入したとしても、電力消費に占める自然変動電源の比率は、30〜35%程度である。

(2)図8に示すように、太陽光発電システムは、1960年代の第1世代(独立型)から1990年代の第2世代(系統連系型)、2010年代の第3世代(系統協調型)から、さらに2020年代の第4世代(PV System4.0、独立・連携自在型)へと進化していくと予測されている。

図8 太陽光発電システムの進化

図8 太陽光発電システムの進化

BIPV:Building Integrated Photovoltaics:建物一体型太陽光電池)
出所 一般社団法人 太陽光発電協会:「JPEA PV OUTLOOK〜 太陽光発電2050年の黎明 〜」、2017年6月

 特にAIを活用する第4世代(PV System 4.0)に至っては、天候に左右される変動電源として消極的に見られていた時代とは異なり、電力系統への統合を容易にする太陽光発電システムに発展すると期待されている。


▼ 注6
http://www.env.go.jp/press/103822/105478.pdf

▼ 注7
2014年エネルギー白書のURL

▼ 注8
エネルギー基本計画(2014年4月)

▼ 注9
3E+S:Energy Security〔安定供給(自給率向上)〕、Economic Efficiency(経済効率性向上)、Environment(環境への適合)、そしてSafety(安全性)

▼ 注10
「Getting Wind and Sun onto the Grid」、2017年3月

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...