[特集]

イケアのサステナビリティ戦略「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」

― 2020年に再エネで100%のエネルギー自給を目指す ―
2017/10/17
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」の3つの重点領域

 ピープル・アンド・プラネット・ポジティブの中で、「イケアのサステナビリティは、イケアのビジョンとビジネスの基盤に根差すもの」と位置付けられ、次の3つの重点領域(フォーカスエリア)を謳っている。

  1. 多くのお客さまが、よりサステナブルで健康的な暮らしを提供する
  2. 資源とエネルギー自立(自給)に向けて努力する
  3. イケアのビジネスによって影響を受ける人々やコミュニティに、より快適な暮らしを提供する活動をリードする

〔1〕LED電球7,900万個で65万世帯分の電力を削減

 世界中のIKEAストアへの来客数は年間約7億8千万人、同社のWebサイトへは世界中から21億人もの顧客が訪問している。これらの顧客に対して、イケアでは、いかにサステナブルで健康的な暮らしのインスピレーション(着想)や商品、ヒントやアイデアを提供できるかということを目指している。

 イケアでは、節電節水やごみの分別など健康・環境関連の商品について1,000個強の商品を取り扱っているが、なかでも特に力を入れているのがLEDだという。

 2015年に、イケアで販売する照明をすべてLED電球に切り替え、現在、白熱球は一切販売していない。LEDは、白熱電球に比べて消費電力が85%も少なく、また最大寿命も20年ともいわれていて、環境に良いだけではなくユーザー(顧客)にとっても、財布にも優しい。イケアでは、LEDが1個99円(400ルーメン)〜と、手ごろな価格で販売している。

「ソーラーパネルの導入・設置から始めなくても、LED電球から始めるってことでも環境に少しでも貢献できると思っています。2016年は、世界中でLED電球を、すでに7,900万個販売しています。これは65万世帯分の電力を削減していると同じことになるのです」(マティ氏)。

〔2〕100%サステナブルな資源の供給:木材、紙、コットン

 イケアでは商品開発の過程で、テーブルあるいはベッドなど多くの木材を使用しているが、世界の商業用に使われる木材の全体の1%をイケアの家具製品に使用している。このため、2020年8月までに、木材、紙、ボール紙については、環境破壊を伴わない、よりサステナブルな調達先からの仕入れを100%にすることを目指している。2016年12月現在で、その使用比率は72%にまで達成している。

 コットン(綿)も同様に、世界のコットン供給量全体のおよそ1%をイケアが使用している。ソファのテキスタイルやクッション、カーテンなどはコットンを使用しているが、これらに関してはすでに2015年の時点で、使用するすべてのコットンの原料は持続可能な農法で栽培された綿花注7になっている。

 コットンの生産過程においては、これまでたくさんの水を使い、多くの化学物質が使われていたが、これを改善し、現在、綿花を生産する農家では、水や化学肥料、農薬の使用を減らす一方で、生産量を増やしていくことによって、農家における利益は増加できるようになっている。

 これらのことは、イケアとしても、サプライチェーンで働く農家の生活、子供たち、家族の生活の支援にもつながっている。これまで、このようなイケアの事業に関わった農家は11万人以上だという。

写真2 持続可能な綿花栽培を実現するイケアの綿花農業の改革

写真2 持続可能な綿花栽培を実現するイケアの綿花農業の改革

出所 イケアのビデオ資料より

〔3〕循環するデモクラティックデザイン

 イケアの商品開発の哲学の基本に、‘デモクラティックデザイン’というポリシーがある。「優れたデザインとは、形、機能性、品質、サステナビリティ、低価格を組み合わせたものだ」という考え方である。イケアでは、これら5つのすべての要素を考慮して開発し、1つでも欠けていると商品化されないという厳しい条件のもとに開発される。

 特に最近では、サステイナビリティスコアカードというルールが設けられている。このルールには11の項目があり、11項目をすべてクリアしないと商品化されない。例えば、再生可能な素材、リサイクル可能な素材、リサイクルされた原材料が使われているか、あるいは品質の点では、高品質で長持ちする商品になっているか、また、修理に使用されるスペアパーツもその商品の中に用意されているか、などの項目がすべてチェックされる。

 さらに、新商品を商品化する前には、既存の商品よりスコアが高くないとその商品を販売することはできず、その提案は振り出しに戻されることになる。

〔4〕日本のペットボトルをリサイクルして作られたシステムキッチン

写真3 日本のペットボトルをリサイクルして作られたシステムキッチン

写真3 日本のペットボトルをリサイクルして作られたシステムキッチン

出所 イケア・ジャパン提供資料より

 すでに店舗販売されている、システムキッチン‘KUNGSBACKA’(クングスバッカ。スウェーデンの地名)の扉と引き出し前部の表面は、ペットボトルをリサイクルしてつくられたプラスチックフォイル(箔)で仕上げている(写真3)。同キッチンの天板や扉部分は100%再生木材でできているが、さらにそれを加工しているフォイル部分が、日本のペットボトルをリサイクル収集して加工されている。

 ミネラルウォーターなどのペットボトルは、現在では30%ほどしかリサイクルされず、残りの70%は埋め立て地や海にゴミとして廃棄されている。これらが生物分解されるまでにかかる年数は、実に700〜1000年もかかり、環境へのダメージは膨大である。

 500mlのペットボトル25本で、KUNGS-BACKAの扉(40×80cm)1枚分のフォイルが生成でき、さらに約1,000本で20枚の扉とそれに対応する数のパネルを備えた標準サイズのキッチン一式分のフォイルが生成できる。リサイクル用のペットボトルはすべて日本で収集され、国内でフォイルに再生された後、船便でイタリアに送られて扉に装着される。

 このようなプラスチックフォイルを使用することで、キッチン一式あたりの石油使用料を20ℓも削減できるという。イケアで販売しているキッチン扉をすべて同様の方式で製造したとすれば、2017年度だけでも960万ℓの石油が節約できる。

 マティ氏は、「いずれはこうした製造工程で、日本でも実現できればいいと思う」と述べている。


▼ 注7
ベター・コットン(Better Cotton)と呼ばれる。ベター・コットン基準に基づいて栽培された綿花や、その基準の遵守に向けて取り組む農家の綿花、リサイクルコットン、米国のほかの基準(「e3 Cotton Program」など)に基づいて栽培された綿花を指す。

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