[特集]

イケアのサステナビリティ戦略「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」

― 2020年に再エネで100%のエネルギー自給を目指す ―
2017/10/17
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

イケアの再生エネ100%を目指す取り組み

〔1〕日本でも2018年には全店舗にソーラーパネルを設置

 イケア・グループでは、電力・エネルギーに関しても、再生エネ100%という目標に向かって取り組みが続けられている。前述したように2020年には、事業で消費する電力の100%に相当する再エネをつくり、自給できるようにする。

 2009年以降、イケア・グループ全体でサステナビリティへの投資額は、30億ユーロ(約3,900億円)である。これは、ソーラーパネルや風力発電所の設置や、地中熱利用設備などへの投資の合計額である。

 現在、イケアではすでに415基の風力タービンを所有し稼働させており、また、イケアの各施設(店舗など)には73万枚のソーラーパネルが設置されている注8。また、2016年度には、事業に必要な電力の71%に相当する再エネが生成されている。

 例えば、日本においては、2017年10月11日にオープン予定のIKEA長久手(ながくて。愛知)では、店舗の上に太陽光パネルを設置する予定であるが(後述)、既存店においては、建造物上の問題で屋根の上に設置できないものは駐車場に設置している。可能な場所にスペースを利用して設置し、現在9店舗のうち5店舗にソーラーパネルが設置されている。2018年の8月までに、全店舗にソーラーパネルを設置する予定だ。

 ソーラーパネルは、現在国内の全店舗合わせて5,265kWが設置されているが、これに加えて2018年末には、愛知県・弥富(やとみ)に500kW相当のソーラーパネルを設置した物流センターの建設も予定されている。店舗と物流センターの合計で5,765kW相当分の電力量を自社で賄うことを目標にしている。

 日本における太陽発電を含む再エネ導入の内訳は、表3の通りである。

表3 イケア・ジャパンの再生可能エネルギーの導入状況(2017年度は予測値)[単位:%]

表3 イケア・ジャパンの再生可能エネルギーの導入状況(2017年度は予測値)[単位:%]

出所 イケア・ジャパン提供資料より

〔2〕イケア・ジャパンにおけるその他のエネルギー利用に関する取り組み

 イケアでは、グローバルでエネルギー消費量を全体的に削減していく取り組みが行われているが、エネルギー利用率を30%削減するという目標を掲げている。

 日本においては、エネルギーの消費量削減に向けて大きく、

  1. 2015年にストアとオフィスを100%LEDに切り替える
  2. 地中熱の導入
  3. 夜間冷房

の取り組みをし、2015年時点ではすでに30%の削減目標は達成している。

(1)地中熱の導入

 地中熱注9の導入(地中熱空調利用)に関しては、全店舗ではないが、すでにIKEA福岡新宮(しんぐう。福岡)とIKEA立川(東京)で運用されている。新しくオープンするIKEA長久手にも導入予定である。

 地中熱は1年を通して安定しており、暖房時は外気より高い温度、冷房時は外気より低い温度の地中熱を熱源として、効率の良い運転が行われている。

 IKEA福岡新宮では、地中熱交換器を100m×70本埋め込み、ヒート熱ポンプ1台(冷却能力527.4kW、加熱能力530.8kW)を使って運用し、建物全体の空調負荷の約30%を賄っている。

 地中熱の導入によって、IKEA福岡新宮では500kW、IKEA立川では350kW相当を賄っており、IKEA福岡新宮においては、平成27(2015)年度の省エネ大賞で審査委員会特別賞を受賞している注10

(2)夜間冷房

 夜間冷房については、あるコワーカーからの提案で採用された。

「IKEA新三郷(しんみさと。埼玉)で、とても暑いある夏の日、当日は35℃くらいあった時でしたが、夜中に冷房を切って、翌日、お客様を迎えるのに冷房の温度をかなり下げないといけない。急激に下げた結果、エネルギー消費量が上がり、当然コストもすごく上がったので、このようなことはサスステイナブルな取り組みとしては良くない。実験的に夜間冷房をつけっぱなしにしたらどうでしょうか、という提案が、あるコワーカーからありました。そこで、6〜8月の間ずっと夜間の冷房を切らずに26℃に設定して夜間冷房をした結果、10%も電力の消費量を下げることができ、約800万円のコスト削減につながりました。このような良い結果になったので、夜間冷房を採用できる店舗は、夏には実践しています」(マティ氏)。

(3)ユニークな「エネルギー監査」と「ファシリティマネージメントレポート」

 その他、イケア・グループ全体では、ユニークなエネルギーに関する取り組みがある。

 1つは、エネルギー監査である。

 海外の店舗では2,3年に一度、イケア本社からエネルギー監査が入る。そこから、いろいろな改善点と施策を決めることができる。イケア・ジャパンでは2016年に初めてエネルギー監査を実施した。

 もう1つは、ファシリティマネージメント(設備管理)レポートの提出義務である。

 イケア本社のサステナビリティチームでは、設備管理に関するレポーティングがしっかり定着している。各国からかなり細かいレポートを毎月提出することが義務化され、システム化されている。

 例えば、エネルギーの消費量やごみの排出量、ごみ分別の数値など、あらゆる項目に関してある。

 イケア・ジャパンには、各店舗に設備管理のスペシャリストが常駐し、設備運用はすべて社内で行っている。


▼ 注8
関連記事参照:「IKEAがインディアナ州に建設中の新店舗に1.34MWのメガソーラー設置へ、日本でも計画進行中」(インプレス、SmartGridフォーラム)

▼ 注9
地中熱:浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギーのこと。地中の温度は地下10〜15mの深さになると、年間を通して温度変化が見られなくなり、夏は外気温度よりも地中温度が低く、冬は外気温度よりも地中温度が高い。このことから、この温度差を利用して効率的な冷暖房などを行う。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/underground/

▼ 注10
平成27年度省エネ大賞 [省エネ事例部門]で受賞。主催:一般財団法人 省エネルギーセンター、後援:経済産業省

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