[加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合]

加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合《前編》

― 「走る蓄電池」はIoT/再エネ時代のキーテクノロジーとなるか ―
2018/05/01
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

新しい電力システムを支える蓄電池

〔1〕蓄電池:同時同量の制約を破る効果

 現在、太陽光や風力発電など、気候によって電気の発電量が変動する、再生可能エネルギー(以降、再エネ)の大量導入時代を迎えて、長期的・短期的を問わず、大容量の電気を蓄えられる次世代蓄電池に大きな期待と注目が集まっている。

 蓄電池がない、あるいは蓄電池が高価な時代の電力システムにおいては、一部、揚水発電のような貯蔵技術はあったものの、電気は貯められないため、消費者が使う消費電力量と発電所で発電された電力量を常に一致させて、電力を安定的に供給できるよう、「同時同量」が制度化され、電力システムの根幹を支えてきた。

 しかし、蓄電池技術の発展と低コスト化は、この同時同量の制約を破る効果があるところから、再エネ時代を迎え、その重要性が高まってきている。

 さらに、EVの登場によって、EV向けの蓄電池も性能の向上とともに低コスト化が進み、(リチウムやコバルトの資源の問題はあるが)蓄電池が大量に製造されるようになってきた。このため蓄電池は、①家庭やオフィスの定置型用蓄電池や、②自動車用蓄電池の両方の領域で、普及期に入ってきた。

 これによって図4に示すように、「電力システム」と「再エネ」と「自動車」が連携・融合した新しい電力システムの構築が可能となってきた。

図4 電気自動車(EV)と電力システムの融合

図4 電気自動車(EV)と電力システムの融合

出所 太田 豊「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

〔2〕電力会社が蓄電池をアセットとして位置づけ

 また、今後電力システムを増強するには、配電線や送電線などを敷設するために土地の取得から始めなくてはならず、コストもかかる。そこで、電力需要のピークに対応するためにコストの高い配電線や送電線の設備を増強するのではなくて、蓄電池で充放電して乗り切ることができれば、設備コストを抑えられる可能性がある。このような観点が、欧米の、特に欧州の電力会社において出てきている。すなわち、電力会社が蓄電池をアセット(電力資産)として使おうとしているのである。

 日本の電力会社の場合は、まだ欧米のような考えには至っていない。その理由は、日本の電力系統が、従来の地域独占事業を前提とした余裕のある電力設備を維持していくことに比重を置いているからである。海外、特に欧州の場合には、「効率化した者が勝ち」という競争市場が背景にあり、「効率化しなければならないから蓄電池を使おう」「蓄電池であっても設備として投資する以上はコストがかかり大変であるが、配電線や送電線を増設するよりはコストが安く効率的だろう」と考えているのだ。

電気自動車(EV)と電力システムの融合

〔1〕電気自動車を系統電力に利用

 前出の図4は、電力会社の基幹電力システムと再エネと自動車の関係を示したものである。

 これは、今後、EVが大量に導入されることが予測されるため、前述したように、自動車を電力システムのアセットとして使うという画期的な観点である。家庭用の定置型蓄電池でも変電所の大型蓄電池でもなく、EV用の蓄電池をシェアリングという形で有効活用できるのではないか、という発想なのだ。

 蓄電池だけ購入して利用するのは、コストも高いため投資しにくい面がある。しかしEVの場合は、すでに自動車として購入済みのものなので、それを利用すれば投資も少なく済む。このため、海外では、「EV用の蓄電池を系統電力の目的に利用するとことを非常に重視しているのです」という(太田准教授)。

〔2〕世界の流れとなってきた蓄電池の系統利用

 すでに蓄電池をつくっている会社もいろいろ登場しているが、

  1. 家庭用の蓄電池として販売
  2. EV用としても系統用にも使える蓄電として販売
  3. 電力会社の変電所に設置する大型蓄電池として販売

などのように、大きく分けると3つの蓄電池ビジネスが登場している。

 太田准教授の研究室では、(2)のコスト面で一番有利と思われる蓄電池の研究を推進している。

「ただし、自動車用の蓄電池を系統用に使うため、制度設計から自動車業界や電力業界、電機業界など、すべてに関係してくるので大変なチャレンジになりますが、そこを狙っています」(太田准教授)。

 図4の下部に示すように、現在、世界の各電力会社は、EV用の蓄電池を系統制御用に使えないかと模索している。日本を代表する東京電力(TEPCO)でも、「電気自動車は移動する分散型電源」と位置づけている。これは、Utility 3.0(ユーティリティ3.0注2)というコンセプトの中に出てくるもので、今後、電力会社は、蓄電池をアセットとして活用して系統制御をする、あるいは配電制御をするという考え方を示している。

 同じく図4に示す、ドイツの電力会社イノジー(Innogy)も、英国のナショナル・グリッド(National Grid)も、電気自動車を重視していることがわかる。

 今後、「家庭用蓄電池」や「変電所用蓄電池」、「自動車用蓄電池」が同時に全方位的に市場に普及していくと予測されるが、この3つの分野の蓄電池をうまく使いこなして再エネを大量に導入する方向に向かっていくと考えられる。

 それには、電力会社が送電・配電設備をいかに効率化するかが命題となるが、ここでは、そのうちのEV用の蓄電池に特化して解説する。


▼ 注2
Utility 3.0(ユーティリティ3.0):ユーティリティとは「役に立つ」という意味であるが、この場合は電気、ガス、水道などの公益事業や設備(インフラ)を意味する。例えば電力の場合、①地域独占などのもとに成長してきた時代〔1951(電力再編)〜2016年〕はUtility 1.0の時代位置づけられ、②2016年4月以降〜現在は、電力システム改革によって電力小売完全自由化が行われ、効率性を求められるようになったUtility 2.0の時代と位置づけられている。③今後は、急速に進展する分散電源や蓄電池、デジタル技術を活用し、電気だけでなく、ガス、水道などの社会インフラを総合的に担う新しいエネルギー事業の形態へと進展していくと見られているが、その時代をUtility 3.0の時代と呼んでいる。

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