VPP、P2Pエネルギー取引などが展開される送電ネットワークの将来像
〔1〕蓄電池を利用した新しいイノベーション
前述のような流れの中で、新しく登場しているVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)やブロックチェーンを使用したP2P(ピア・ツー・ピア。対等通信)によるエネルギー(電力)取引システム(トランザクティブ・エネルギー)などにおいても、再エネやEVなどの蓄電池を利用した新しいイノベーションが次々に登場している。
例えば、太陽光発電や風力発電などの再エネやEVの蓄電池などの多くの分散電源を束ねて、あたかも1つの大型火力発電所のように運用するVPPの実証実験や、ブロックチェーン技術を使用したP2P電力取引の動きなどが活発化している。
〔2〕個別最適化しながら全体最適化を
図10は、電力会社側の送電ネットワークシステム(図の上部)と需要側(ユーザー側、図の下部)の配電ネットワークあるいはマイクログリッド、スマートコミュニティなどを連携させた次世代電力システムのイメージ図である。全体として、VPP/DR(デマンドレスポンス)や、P2Pによるエネルギー取引なども行われている環境である。
図10 VPP、P2Pエネルギー取引等が展開される送電ネットワークの将来像
マイクロCHP:Micro Combined Heat and Power、小型の熱電併給システム。発電と熱供給を同時に行う小型のシステム。
コージェネレーション(Cogeneration)とも言われる。
出所 http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000583.pdf
このような環境下で、図10の下部に示す「配電ネットワーク」「マイクログリッド」「スマートコミュニティ」の3つの形態が、個別に最適化されながら全体最適化が図られるという流れになってきている。
実際には、これら3つのうち、すでに発送電の分離(電力会社の発電部門と送電部門の分離)が行われている欧州のドイツの一部、あるいはITが発達しているオーストリアや英国などでは、配電会社による配電ネットワークの形態の構築が進んでいる。
一方、新しいまちづくりに力を入れている中国の天津や、欧州でもオランダのアムステルダムやドイツのハンブルクのような大都市では、スマートコミュニティの形態が進んでいる。
マイクログリッドの形態はドイツが進んでおり、特に電力会社を運営している地方公共団体や、各地のコミュニティが活発に取り組んでいる。こうした地域では、これまですでにコミュニティの中で電力の需給運用をしていたので、新しくP2P(家庭と家庭間の対等通信)による電力取引が行われたり、さらに地域の市民レベルで電力取引が行われたりし始めている。
パリ協定以降は、特にEVによる電動化によって、町の中のCO2を削減することへの関心が高まり、まちづくりの一環としても取り組まれるようになってきている。
〔3〕VPPでも蓄電池は重要な役割を
現在、日本の場合は、図10の3つの形態について、ビジネスモデルを検討中の段階にある。しかし、不動産業界や住宅業界では、積水ハウスや大和ハウスなどのように、CO2の削減を目指して熱心にZEH(ゼッチ)やZEB(ゼブ)を推進している先進企業がある。また前述したように、V2Hの取り組みも本格化しようとしている。
一方、日本政府は2016年度(第1年度)から電力会社、通信会社、自動車メーカー、電池メーカー、ハウスベンダ、コンビニなどの参加による5カ年計画で、VPPの実証事業を展開しており、2018年4月には、第2年度に当たる「2017年度のVPP構築実証事業の成果報告」注9が発表された。
この革新的なVPP構築実証事業の中でも、EVは重要な役割を果たしている。
「現在、VPPは重要な局面を迎えています。その取り組みの中で、VPPでは、家庭用の太陽光発電のコントロールと風力発電のコントロール(再エネのコントロール)、蓄電池のコントロールの3つが、必須になってきます。特に、当研究室では、EVをVPPのように使えないか、という研究課題に真正面から取り組んでいます。EVというのは発電できる車なわけですから」(太田准教授)。
(後編につづく)
▼ 注9
「平成29年度バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)の成果報告(概要版)について」2018年4月20日