[加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合]

加速する電気自動車(EV)と電力システムの融合《前編》

― 「走る蓄電池」はIoT/再エネ時代のキーテクノロジーとなるか ―
2018/05/01
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

指数関数的に普及が拡大する電気自動車の台数

 EVの蓄電池を系統制御用に使う(V2G)と仮定して、現在、EVがどれくらい普及しているのかを見てみよう。

 図5に、グローバルなEVの普及台数(2010〜2016年)を示す。

図5 グローバルな電気自動車の普及台数(2010~2016年)

図5 グローバルな電気自動車の普及台数(2010~2016年)

出所 太田 豊「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

表1 BEV、HV、PHEV(PHV)、BEVxの比較(図5関連の用語解説)

表1 BEV、HV、PHEV(PHV)、BEVxの比較(図5関連の用語解説)

出所 各資料から編集部作成

 図5は、2016年までのEVの普及台数を年度別に示しているが、2010~2016年の間は指数関数的(飛躍的に増加)に拡大し、全世界で200万台に達していることがわかる。

 「2016年に電気自動車(系統から電気をもらうBEVとPHEVの合計)が200万台」については、何億台という自動車の普及状況から見ると、まだ数%程度のシェアである。これを国あるいは地域ごとに見ると、薄い緑色が1位の中国、濃い緑色が2位の米国、青色が3位の日本で、以下、ノルウェー、デンマーク、英国、フランス、ドイツという順になっている。地域的に見ると、中国、米国、欧州に次いで日本は第4位に位置している。

 日本国内のEVの販売台数では、日産LEAFが約8万台となっている。日本の乗用車の総数は6,000〜7,000万台なので、まだ取るに足らない数ではあるが、市場は急速に伸びている。その勢いは、太陽光発電の最初のFIT導入時の状況に似ており、また、トヨタ自動車のプリウスの初期の伸び方にも似ていると言われている。

 今後、2025年、2030年、2040年と推移していくなかで、EVのシェアは確実に2割、3割、あるいは5割くらいまで加速して普及するとも言われている。

大容量化が進むEV用蓄電池

〔1〕蓄電池容量の国際比較

 図6は、現在のEVがどの程度の蓄電池を搭載しているか、その数値を示したものである。図6の下部に示す表の一番下を見ると、テスラのModel Sは、85kWhの蓄電池を搭載しているが、100kWhの蓄電池を積んでいるものもある。

図6 電気自動車用蓄電池の大容量化

図6 電気自動車用蓄電池の大容量化

出所 太田 豊「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

 図6の左上の写真は、サンフランシスコ国際空港で借りられるテスラのEVである(Herzのレンタカーで2泊3日で5万円程度)。蓄電池容量が100kWhあれば走行距離は十分である。100kWhという電力量は、車中で、半月ほど生活できる電力量である注3

 同じく、日産LEAFの蓄電池容量は、2018年現在で40kWhであるが、2019年には60kWhの蓄電池が搭載されると発表されており、日本でも蓄電池の大容量化が急速に進展している。

〔2〕EV用蓄電池の価格の推移

 図7は、IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)が発表した、EV用蓄電池の価格の推移を示したものである。青色の線で示される蓄電池の価格は急速に下がってきており、2020年には1kWhで100米ドルになると言われている。この価格はシステム価格ではなくパック価格であるが、これは蓄電池の仕入れ価格とも言われている。

図7 電気自動車用蓄電池の価格の推移

図7 電気自動車用蓄電池の価格の推移

DOE:United States Department of Energy、米国エネルギー省
出所 太田 豊「電気自動車と電力システムの統合と東京都市大学でのキャンパス実証」、2018年4月10日

 したがって、前述したテスラModel Sの場合、蓄電池容量は85kWhなので、85kWh×100ドル=8,500ドル(約85万円)。Model Sの価格は1,000万円であるから、蓄電池の占める価格の割合は8.5%と低くなってきており、今後、EVにはさらに容量の大きい蓄電池が搭載されていくと見られている。

〔3〕蓄電池のエネルギー密度

 図7の黄色い曲線はPHEVの蓄電池のエネルギー密度〔Wh/L(リットル)、体積1リットル当たりの電力量〕であるが、2015年のエネルギー密度は、300Wh/Lと飛躍的に上昇している。蓄電池の低価格化と小型化が進み、よりEVに搭載しやすい状態になってきていることがわかる。2020年には、米国においてPHEVの蓄電池のエネルギー密度は400Wh/Lまで上昇すると予測されている(注:NEDOはすでにその数値を出している注4

 最近、英国ではこれと同じレベルの目標を、ファラデー・バッテリー・チャレンジ(Faraday battery challenge注5)として発表している。

 このように、欧米が蓄電池の開発に意欲的なのは、政府がEVへシフトすることを政策で明確にしているという背景があるが、日本においては全体的に立ち遅れ気味である。

 とはいえ、NEDOの研究開発によって、日本の蓄電池の仕様は世界で一番となっており、日本にとっては、今が蓄電池に力を注いで挽回するチャンスでもある。

 このような動向を背景に、定置型蓄電池よりも、EV用蓄電池の活用が国際的な潮流になってきているところから、「EVと電力システムの融合を、世界の核心的な流れとしてとらえていきたいのです」(太田准教授)。


▼ 注3
日本では2人暮らしの場合、1日10kWh程度の消費電力量である。4人暮らしであっても多くて20kWh程度といわれている。このため、万が一電力系統が停電した場合には、EVがあれば十分しのげる電力量である。

▼ 注4
http://www.nedo.go.jp/content/100535728.pdf

▼ 注5
https://www.gov.uk/government/collections/faraday-battery-challenge-industrial-strategy-challenge-fund

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