[急展開するエネルギー分野のブロックチェーン]

急展開するエネルギー分野のブロックチェーン

— 第2回 ブロックチェーンを使った電力取引プラットフォーム —
2018/06/01
(金)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

電力取引プラットフォームの要素

 電力取引プラットフォームを開発している各社のアプローチは異なるが、重要な技術的な要素には次のものがある。

〔1〕計測・通信機器

 取引参加者の電力消費量や発電量を現場(「エッジ」)で計測し、この計測量をもとに取引を行う。

 図4に、LO3 Energy社(米国)およびElectrify.asia社(シンガポール)が開発した計測器の例を示す。両者とも、計測値をブロックチェーンに記録する機能や通信機能を備えており、取引参加者のネットワークに接続すると推測する。

図4 電力取引プラットフォームに使用される計測通信機器の例(左:LO3 Energy 、右:Electrify.asia)

図4 電力取引プラットフォームに使用される計測通信機器の例(左:LO3 Energy 、右:Electrify.asia)

出典 【LO3 Energy】【Electrify.asia

 また、現場に計測器を設置しないでソフトウェアのみで取引を完結できるシステムを構築している事業者もある。Power Ledger社(オーストラリア)は独自で計測を行わず、電力会社が取得した電力情報を利用して、P2P取引を実現している。

〔2〕ブロックチェーン技術

 各社が取引プラットフォームで使っているブロックチェーン技術も一様ではないが、イーサリアム(Ethereum)注11を利用して電力取引のアプリケーションを構築している事業者が多い。

 この理由には2つ考えられる。1つは、イーサリアムの拡張技術体系の中には、ERC20というトークン(価値を含んだ媒体で、デジタル化されたもの)のもつべき機能を定義した標準があり、トークンを発行する事業者はこの標準を使うことによって、既存の基盤技術を利用できるというメリットである。

 もう1つは、イーサリアムは、さまざまな応用を見据えて、ソフトウェアプラットフォームとして活用するためのスマートコントラクト(自動的に契約を履行する仕組み)基盤として開発された経緯があり、スマートコントラクトを実装できるというメリットである。

 表1に、主な電力取引プラットフォームで使われているブロックチェーン技術の例を示す。

表1 電力取引プラットフォームで使用されているブロックチェーン技術の例

表1 電力取引プラットフォームで使用されているブロックチェーン技術の例

出所 各社Webサイトおよびホワイトペーパーなどをもとに著者作成

〔3〕トークンシステム

 ブロックチェーンとは、デジタル化されたアセットを不正・改ざんなくP2Pで移転できるシステムともいえるが、ビットコインのような仮想通貨やその他のトークンはこの「デジタル化されたアセット」の1つの形態である。各電力取引プラットフォームでは取引媒体として固有のトークンシステムを備えているものが多いが、その設計思想や仕組みは各社で異なる。

(1)LO3 Energy社のシステム

 LO3 Energy社のシステム「Exergy」(エクセルギー)では、ERC20準拠でグローバルに流通するXRGトークンとプロジェクトごとに発行されるAnergy(アナジー)トークンの二重のトークンシステムを採用している注12

 取引参加者は、プロシューマ、需要家ともネットワークに接続して参加権利を得るためにXRGトークンが必要となり、取引所などから購入する必要がある。また、電気の取引通貨にはトークンを使わず、法定通貨が使われる。同社は、電力データが価値をもつと考えており、Anergyトークンは各参加者の電力データを取引するときに使われる。

(2)Power Ledger社のシステム

 オーストラリアのPower Ledger社も、ERC20準拠のPOWRトークンと取引通貨のSparkz(スパークツ)の二重のトークンシステムをもっている注13。参加者が取引に参加するときにPOWRトークンを必要とする点は、LO3 Energyのシステムと似ているが、POWRとSparkzが交換可能である点はLO3 Energyのシステムとは異なる。

 取引通貨Sparkzが必要な参加者は、まず交換所からPOWRを購入し、それをSparkzに交換することになる。交換レートはSparkzが現地の電気料金を適切に反映するように調整される。

〔4〕ユーザーインタフェース

 参加者のユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)に影響を与えやすいという点で、ユーザーインタフェースも重要である。次に示す図5は、LO3 Energy社が運営するニューヨーク市のBrooklyn Microgrid(ブルックリンマイクログリッド)プロジェクトで使用されている携帯アプリの画面の例である注14

図5 Brooklyn Microgrid(ブルックリンマイクログリッド)の携帯アプリ

図5 Brooklyn Microgrid(ブルックリンマイクログリッド)の携帯アプリ

出所 https://vimeo.com/210184059

 これらのアプリでは、参加登録(左の2つの画面)、需要家が購入を希望するエネルギーの構成および予算の上限の設定(右から2つ目の画面)、プロシューマの発電予測の確認(右端の画面)、参加者を地図上に表示、ネガワット取引の設定、発電実績の確認、地元のニュースフィードなど、充実した機能をもつ。


▼ 注11
イーサリアム:ビットコインとともに代表的なパブリックブロックチェーンの1つ。2015年7月30日から運用開始された。

▼ 注12
https://lo3energy.com/wp-content/uploads/2018/04/Exergy-BIZWhitepaper-v11.pdf

▼ 注13
https://powerledger.io/media/Power-Ledger-Whitepaper-v8.pdf

▼ 注14
https://vimeo.com/210184059

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