クラウドネイティブネットワーク基盤の特徴
〔1〕エンドツーエンドの検証が可能
同ラボは、拡張性のあるネットワークトラフィックシュミレーション機能を備え仮想化されたRAN(無線アクセスネットワーク)、モバイルエッジコンピューティング、仮想化されたEPC(進化型パケットコア。LTEコアネットワーク)やIMS(IPマルチメディアサブシステム)のコアシステム、およびOSS(運用支援システム)、BSS(ビジネス支援システム)が含まれており、ネットワーク全体の包括的なエンドツーエンドの検証が可能となっている(写真2〜写真5、図2、表2を参照)。
写真2~写真5 楽天クラウドイノベーションラボに設置された各設備
写真2 サーバルーム〔汎用サーバ(ノード)600台設置。CPUはIntel Xeonを使用〕。商用サービスで必要となるノード(RAN、伝送、EPC、IMS、BSS、OSS等)が、商用システムと同じ構成で構築されている。現時点は4G設定であるが、5Gの商用化も見据えて設計されているためソフトのアップグレードで容易に5Gへの移行が可能。
写真3 基地局設備エリア
(1)上段設備:RHH(Remote Radio Head、リモート無線装置)。基地局設備の1つ。主に無線信号の送受信を行う。ビルの屋上などに設置される。
(2)下段設備:RIU(Radio Interface Unit、無線インタフェースユニット)。回線終端装置であり、インタフェースの変換器。
写真4 シミュレータエリア
同時に大量の無線トラフィックをシミュレータ(模擬的な試験装置)で発生させ、基地局または携帯端末の機能検証を行う。また、実際の携帯端末を使用して、エンドツーエンドで試験を行う。リモートからの試験制御、または自動制御による試験も可能となっている。
写真5 シールドルーム(電波を遮蔽した部屋)
外部からの電波の影響を受けず、かつ外部に電波を漏らさないように設計・施行された部屋。シールドルーム内は、商用基地局と同等の設定の電波を送信し、検証することが可能で、外部からの影響を受けずに正確な検証が可能となっている。
出所 編集部撮影。説明内容は「完成披露閲覧会資料」を参照
さらに、新機能の商用化を支援するため、商用ネットワークと同一の環境において継続的に試験を繰り返すことができる全経路の実装を自動化している。ここでは
DevOps注5を活用しているため、自動的に新機能やテクノロジーの検証と統合を迅速に繰り返すことができ、楽天モバイルが早期にこれらを商用サービスに展開することを可能にしている。
楽天モバイルは、今後、このラボの設備を活用して「5Gレディ」な次世代ネットワークの構築に向けた試験を実施し、5Gの商用サービスを提供していく。
〔2〕楽天モバイルの5Gへの移行方法
具体的な楽天モバイルの5Gへの移行方法もユニークだ。図1に、楽天の4Gから5Gへの移行計画を示す。
図1 楽天の4Gから5Gへの移行方法
EPC:Evolved Packet Core、LTEのコアネットワーク
eEPC:enhanced EPC、5G対応のLTEのコアネットワーク
eLTE:enhanced LTE、拡張版LTE(リリース15で仕様化)。5G NR(5Gの無線通信方式)と協調できるLTE基地局のこと。5Gシステムの構成要素と位置付けられる。3GPPでは、このようなLTE(4G)という用語を含んでいても、リリース15以降に標準化された技術は、すべて5Gシステムと呼ぶことを決定している。
NR:New Radio、5Gの無線(アクセス)通信方式。4GのLTEに対応する無線(アクセス)通信方式。新無線インタフェースとも呼ばれる。NSA仕様とSA仕様がある。
出所 http://www.soumu.go.jp/main_content/000579869.pdf
- 一般的な5Gへの移行方法(図1上部の「一般的」)の場合、LTE基地局と5G NR(New Radio)注6のノンスタンドアロン仕様の基地局が、4Gコア(eEPC:5G対応のLTEコア)と連携して動作するのに対して、
- 楽天モバイルの5Gへの移行方法
(図1下部の「楽天」)の場合、LTE/eLTE基地局(従来のLTE基地局と5G対応LTE基地局)と、4Gコア(EPC)と5Gコア(スタンドアロン仕様)が連携して動作する。
このため、楽天モバイルの場合は、5G商用サービスの開始とほぼ同時に5Gコアと通信可能な5G NRのスタンドアロン仕様(すなわち5Gのフル仕様)も動作可能となる。
このように、後発の楽天モバイルは、クラウドイノベーションラボで実証することによって、事前に5Gフル仕様による商用ベースの5G商用サービスに早期に対応できるようになる。
この、5Gコアネットワークも含めた5Gのフル仕様は、2019年12月の3GPPリリース16にて策定される予定となっている。