丸紅とLO3 EnergyがP2P電力取引の実証実験を開始
― トランザクティブ・エナジー時代の到来! ブロックチェーンは新ビジネスチャンスのツールとなるか ―2019年6月7日 0:00
パリ協定やSDGs(国連の17の持続可能な開発目標)などによる低炭素化社会に向けて、電力分野においてもDecarbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)という3Dの波が国際的な大きな潮流となり、ブロックチェーン技術を活用したP2P電力取引システムへの取り組みが活発化してきた。
丸紅株式会社(以下、丸紅)は2019年2月から、米国のLO3 Energy(以下、LO3)と再生可能エネルギー(以下、再エネ)利用環境における、P2P電力取引システムの共同実証実験を開始した。日本では、2019年11月から家庭用太陽光発電のFIT期間が終了し始める(卒FIT)こともあり、LO3の日本上陸は注目されている。ここでは、同社が米国ニューヨーク州ブルックリンなどで推進しているP2P電力取引プラットフォーム「TransActiveGrid」を簡単に紹介しながら、共同実証実験の概要を見ていく。
LO3 Energyのプロフィール
表1 LO3 Energyのプロフィール(2019年5月現在、敬称略)
〔1〕TransActiveGridプラットフォームの実証を開始
米国ニューヨーク州ブルックリンに2012年に設立されたスタートアップ「LO3 Energy(エル・オー・スリー・エナジー)」(表1)は、2016年に、P2P注1による電力取引を目指して、ブロックチェーン(分散型
台帳技術)を使ったプラットフォーム「TransActiveGrid」注2を開発し、ブルックリンにBMG(Brooklyn Microgrid、ブルックリンマイクログリッド)注3を構築して同プラットフォームの実証実験を開始した。
既存の大規模集中電力システムから太陽光(再エネ)などによる分散エネルギーシステムへの大転換期を迎えているなか、再エネ時代に対応したTransActiveGridプラットフォームは、P2P電力取引プラットフォームとして世界から注目を集めている。
〔2〕将来は電力取引プラットフォームにトークンの使用を組み込むことも計画中
LO3は、現在取り組んでいる電力取引プラットフォームに、ERC-20注4に準拠した世界に通用するXRG(Exergyの略)トークン(トークン:電力取引に使用されるデジタル化された価値。一種のデジタル通貨)の使用も計画している注5。
図1に、LO3のP2P電力取引プラットフォームの仕組みを、写真1に、LO3が実証で使用しているニューヨーク州ブルックリンの太陽光パネルの例を示す。
図1 LO3のP2P電力取引プラットフォームの仕組み(XRGトークンの使用は将来)
XRG:LO3のエネルギートークン。電力取引に使用されるデジタル化された価値
出所 LO3 Energy「Energy Business Whitepaper」、2018年4月13日
写真1 LO3 Energyが実証を行っているニューヨーク州ブルックリンの太陽光パネル
出所 Lawrence Orsini氏のLinkedInより
▼ 注1
P2P:Peer to Peer(ピア・ツー・ピア)、対等通信。サーバ(中央管理者)を介さないで、端末と端末が直接、対等に通信すること(このため端末はサーバになったり端末になったり二役を演じる)。エネルギー分野では、プロシューマとプロシューマが、あるいはプロシューマとコンシューマが、第三者を介さずに、互いにエネルギーの売買(取引)を行うことを意味することが多い。
▼ 注2
TransActiveGrid:LO3 Energyによって開発された、P2P電力取引プラットフォーム。
▼ 注3
マイクログリッドという名前がついているが、系統と接続または独立して運用可能な自営線ネットワークではなく、既存の系統を使用している。
▼ 注4
ERC-20:Ethereum Request for Comments、イーサリアムでトークンを発行するための標準規格。イーサリアムは、オープンソースの分散型アプリケーションおよびスマートコントラクトのプラットフォームで、ビットコインとともに、代表的なブロックチェーン技術の1つ。
▼ 注5
LO3 のブロックチェーン技術は、当初イーサリアムを使用していたが、現在は、よりスピードが速くスケーラビリティの高いブロックチェーン技術が開発され、使用されている。