VPPとは
VPPについては、世界各国の電力政策やエネルギー業界によっていろいろなアプローチで取り組まれてきた歴史的経緯もあり、その概念が必ずしも統一されているわけではない。現在は、再エネを含めた種々の分散型エネルギー資源が登場し、さらにIoTの普及に伴ってVPPの概念も進化している。
例えば、日本でも、2016年度から「VPP構築実証事業」(経済産業省)が開始され、2020年は、その実証事業の最後の年を迎えている。
〔1〕VPPの一般的な定義
経産省 資源エネルギー庁によれば、VPPの一般的な定義は次のとおりである。
「工場や家庭などが有する分散型のエネルギーリソース一つ一つは小規模なものですが、IoT(モノのインターネット)を活用した高度なエネルギーマネジメント技術によりこれらを束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することができます。
この仕組みは、あたかも一つの発電所のように機能することから、「仮想発電所:バーチャルパワープラント(VPP)」と呼ばれています。VPPは、負荷平準化や再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などの機能として電力システムで活躍することが期待されています。」
〔2〕VPPの分類:CVPPとTVPP
VPPは、いくつかの観点から分類することができる。
その1つは、仮想ではあっても、大規模大型発電所とまったく同様に振舞えるかどうかである。例えば、東京エリアで100MWクラスの発電所がダウンした時に、仮に北海道から九州まで広い地域に分散しているDERをかき集めて100MWの容量をもつVPPがあったとしても、東京エリアに電力を送るための連系線容量(電力会社の系統を相互に接続する連系設備の容量)が足りず、東京エリア内だけで見ると100MW送ることができない可能性があるからである。
この例のように、卸電力取引所での市場売買は行えるけれども、複数の電力供給エリアに存在するDERを扱うVPPは、①コマーシャルVPP(CVPP。商用VPP)といわれる。これに対して、大規模発電所と同様に、特定エリアに電力供給できるVPPは、②テクニカルVPP(TVPP)と呼ばれることがある注5。
〔3〕VPPシステムの定義と類型
Pike Research(現Navigant Research)のPeter Asmus(ピーター・アスマス)注6氏は、VPPをシステム的な観点から次のように定義している。
「VPPは、1つのセキュアなWeb接続されたシステムであり、分散電源や負荷や蓄電池を遠隔自動制御し、運転の最適化を行うものである。一言でいうと、VPPとはIoTのエネルギー版、すなわち、Internet of Energy(IoE)であり、ソフトウェアイノベーションによって需要家側からの電力供給と、需要家の負荷を制御することでエンドユーザーと配電事業者双方にとっての価値を最大化しようとするものである。」
〔出所 Microgrids, Virtual Power Plants and Our Distributed Energy Future(The Electricity Journal Volume 23, Issue 10, December 2010)〕
アスマス氏は、VPPを、
①DR-VPP:米国に多い、DRベースのVPP
②DG-VPP:ドイツのNext Kraftwerke社注7のように再エネやCHP(Combined Heat&Power、コージェネ)等の供給サイドの設備を用いたVPP
③Mixed Asset VPP:混合設備VPP。蓄電池や蓄熱設備、燃料電池を含め、異なる種類のDERの混合設備を用いたVPP
の3種類に類型化している。
図1に示すように、シュナイダーエレクトリック(Schneider Electric)社(Energy Pool)注8は、VPPに関して同様の類型化を行っている。
図1 シュナイダーエレクトリック社のVPPの類型:フレキシブルな資源としてのVPP
Power -to- Gas(P2G):風力・太陽光発電などの再エネの出力時に生じた余剰電力を、水素や合成メタン等の気体燃料に変換して貯蔵する技術。
出所 Schneider Electric社、European Utility Week 2015資料より
また、米国のエネルギー・コンサルタント&調査会社であるGTM Research(現社名Wood Mackenzie Business)は、DER管理システム(DERMS:Distributed Energy Resource Management Systems)の進化のステップとして、マイクログリッドおよびVPPをとらえている(図2)。
図2 ソフトウェアプラットフォームから見たマイクログリッドとVPP
〔4〕DERMSというプラットフォームの進化過程の1つとしてのVPP
GTM Researchの記事によれば、VPPは技術概念であり、その実装に当たって利用されるソフトウェアプラットフォームがDERMS(DER管理システム)であるとしている。
図2に示す、グラフ左下で色違いの黒い楕円は従来の「大規模集中型電源」で、それ以外の緑系の楕円がDERMSの進化である。このDERMSのプラットフォーム上で稼働するアプリケーションとして、
- ローカルDERMS:特定のDG・DR資源の制御やマイクログリッドの制御
- 地域大のDERMS:広範なDR資源を管理するDRMS(DR管理システム)やVPP
- 自律分散型電力系統:ローカルな要件とグローバルな要件を、同時に満足させる送配電を統合したDERMS
などがある。
図2に示すように、これらのアプリケーションは、DERMSというプラットフォームの進化とともに、より広域・多種類のDERに対応していくようになっている。
▼ 注6
米国の政府機関(California Energy Commission)で活躍し、マイクログリッドとVPPの世界的なエキスパート。
▼ 注7
Next Kraftwerke:ネクスト・クラフトベルケ。ドイツのVPP事業者(本社:ドイツ・ケルン)。東北電力は、2019年5月に同社とVPP実証に係る基本協定を締結、戦略的な連携を推進している。
▼ 注8
エナジープール(Energy Pool Developement)社:フランス初のデマンド・レスポンス・オペレーターとして2009年に設立。現在、欧州最大の産業向けデマンド・レスポンス・オペレーターである。2010年にはシュナイダーエレクトリック(Schneider Electric)社と戦略的提携関係を構築している。2015年6月、日本に子会社「エナジープールジャパン」を設立。