DXシステムにどうシフトするか:3つの視点
ここでは、2020年2月4日に開催された、「Modern Business & Customer Experience」フォーラム(場所:東京・六本木アカデミーヒルズ)における、日本オラクル クラウドアプリケーション事業統括 事業開発本部長 野田 由佳(のだ ゆか)氏の講演注5を中心にレポートする。
野田氏は、前述した「2025年の崖」(2025 Digital Cliff)で指摘されている、負のIT資産を解消し新しい時代に対応した、DXシステムに関する次の3つの視点を中心に述べた。
- 加速する変化にどう対応するか
- オラクルが考えるDXの姿
- AI/機械学習の業務への適用(オラクルがアプリケーションの領域でどのようなAI/機械学習を提供しているか)
【視点1】加速する変化にどう対応するか
(1)新技術がビジネスに劇的な変化を与える時代
図4は、Eコマースから位置情報、IoT、ライドシェアさらにAI、機械学習(ML:Machine Learning)に至るまで、新しいさまざまなテクノロジーが台頭している例を示している。これらが相互に連携しながら、ビジネスに劇的な変化をもたらす時代を迎えている。
図4 新たなテクノロジーがビジネスに劇的な変化をもたらす時代
出所 野田由佳(日本オラクル)「真のアジャイル経営に向けたデジタルトランスフォーメーション」、2020年2月4日
また、図5は、これらのテクノロジーの台頭によって、急速に変化するビジネス環境を示したものである。図5に示すように、①ビジネス上の課題として、働き方改革やデジタルサプライチェーン、優れた顧客体験などがあり、②テクノロジーの変化として、AI/機械学習(ML)やIoT、ブロックチェーンなどが台頭してきた。このようなビジネス環境で、新しいビジネスモデルによる、Uber(ライドシェア)やTESLA(電気自動車)、NETFLIX(ストリーミング配信)などの新規参入企業が、次々に登場している。
図5 急激に変化するビジネス環境
出所 野田由佳(日本オラクル)「真のアジャイル経営に向けたデジタルトランスフォーメーション」、2020年2月4日
(2)日本の生産性は米国の60%の低水準
日本では、このような技術の劇的な変化に対するシステム対応が遅れている。このため、残念ながら日本企業を取り巻く環境は、労働生産性を米国と比較すると、バブルが崩壊した2000年以降は下げ止まりし、また人口も減少し続けている。例えば、2018年の日本の1人当たりの生産性および時間当たりの生産性のいずれも、米国の60%強程度の低水準となっている(いずれも、OECD加盟36カ国中の21位注6)。
「これは、ビジネスを支える企業システム基盤が従来型のシステムのまま、あるいは業務プロセスの変革行われていないため、急速な変化のスピードに追随できなくなっているところに大きな原因があると見られている」と野田氏は分析する。
【視点2】オラクルが提案するDXの枠組み
このような状況の中で新しい価値を提供し、生産性を向上するためには、今ある従来型の柔軟でないシステム(レガシーシステム)を、どのようにしたら変化に対応し続けられるシステムに変えられるか。そのためには、どのような要件や取り組みが求められるのか、図6を参照して見ていく。
図6 オラクルの考えるデジタルトランスフォーメーション(DX)の枠組み:攻め・守りの両面からDX推進を行うための道具立ての整備
出所 野田由佳(日本オラクル)「真のアジャイル経営に向けたデジタルトランスフォーメーション」、2020年2月4日
(1)求められている施策
図6の左に示すように、イノベーションを取り込んでいくことが重要である。しかも、それらをリスクを抑えながらリアルタイム性をもって行うことが重要である。
(2)実現すべき経営の課題:「攻めのDX」と「守りのDX」
企業にとっての課題は、「攻めのDX」と「守りのDX」の両面がある。
「攻めのDX」では、新しい価値の提供や、新しいビジネスモデルを創造するため、企業を後方から支えるバックオフィスシステム(基幹システム)への再投資を促進する。これによって、イノベーションを起こすサービスや製品を提供できるようにする。
一方、「守りのDX」では、バックオフシステムをより自動化して効率化し、コストを下げ、これによって浮いたリソースや資本を、「攻めのDX」にシフトして再配置していく。同時に、サプライチェーン戦略の見直しや製品コストの最適化(コストモデルの見直し)を図っていく。
(3)DX推進のイネーブラー(実現手段)
このようなDXを推進するには、クラウドを活用することを前提に、次の2つの重要な要素が求められる(図6参照)。
1つは、「データドリブン」を定着させることだ。取り扱うビッグデータを分析し、どれだけ「価値ある情報」、すなわち「知識」に変えられるのかは、企業の差別化につながる。
もう1つは、AIや機械学習を、継続的に企業の業務(企業のシステム)に取り込むことである。
これら2つは、バックオフィスに求められる新しい要件であり、オラクルにおいてもこの方針のもとに製品開発が進められている。
【視点3】AI/機械学習の活用とアプローチ
オラクルのAIの一番の特徴は、アプリケーションの中にAIが組み込まれている点である。同社が重点的に投資しているAIの分野は、次の3カ所である。
- アプリケーションの中に、AIによるインテリジェントな分析ツールを組み込む部分(ADAPTIVE INTELLIGENT APPS)
- ユーザーがAI機能を使いやすくするためのインタフェース部分(INTELLIGENT UX)注7
- デジタルアシスタント部分(DLIGITAL ASSISTANTS)
このうち、デジタルアシスタントについては、欧米ではパソコン画面のメニューからではなく、音声によるやり取り(音声アシスタント)によって処理するアプリケーションが、主流となってきている。
例えば、従業員が「パソコンを購入したい」という要求をモバイル端末(スマートフォン)に向かって話すと、AIによる会話型機能(デジタルアシスタント)が「A、B、Cの3機種」を提示して、「どの機種にしますか」と問い合わせてくる。そこで「B機種にしたい」と話すと、システム側が自動的にB機種の購買処理をしてくれ、それをマネージャーが承認し、購買部にそのプロセスが回ってパソコンが発注される。
また、新しいプロジェクトを始める際に、社内で人材の候補者を探す場合にもAIを活用できる。従来は、このような人材集めはプロジェクトリーダーに任されていた。これをAIが全社的な人事データから、過去の実績も含めて、そのプロジェクトの趣旨にあった最適な人材をレコメンデーションしてくれる。最終的には、AIによる人材候補も参考にしながら、人間が判断して最適な人材配置を決定できる。
▼ 注5
講演テーマは「真のアジャイル経営に向けたデジタルトランスフォーメーション」。
▼ 注7
UX:User eXperience、製品やサービスなどを利用して得られる「ユーザー体験」