[特集]

脱炭素社会に向けて市場拡大する洋上風力発電

― 2050年に風力全体は75GW、洋上風力は37GWへ ―
2020/04/12
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

再エネの急増と発送電の法的分離への期待と提言

 それでは、2050年に再エネの導入が急増して主電源化したとき、送電線の確保は大丈夫だろうか。再エネの出力制御問題は解決つくのだろうか。

〔1〕送配電網の公平な利用にむけた「発送電の法的分離」の施行

 図7は、北海道から九州(沖縄を除く)まで、地域管轄の各電力会社がそれぞれその地域に電力を安定供給する、従来の電力システム(系統)である。“従来の”とは、2020年4月から電力システム改革の第3弾である「発送電の法的分離」がスタートするからである。

図7 日本の地域間連系線(連系線)による電力需給バランス

図7 日本の地域間連系線(連系線)による電力需給バランス

出所 電力広域的運営推進機関「年次報告書ー2019年度版ー」、2020年1月の52ページ

 この法的分離は、「送配電部門の地域独占(各地域で独立した系統運用)は継続しつつ、新規参入事業者に送配電網の公平な利用」を進める仕組み注8であり、送配電網の公平な利用に向けて第一歩を踏み出す状況にある。

 そのため、課題も限界も包含している今回の施行であるが、送配電の系統運用については、

  1. 各地域で独立した系統運用から全国的な系統運用とする
  2. 地域を超えた送電容量を増加させる

などの、系統運用のさらなるパラダイムシフトが期待されている。

図8 新しい次世代送電網のイメージ

図8 新しい次世代送電網のイメージ

出所 加藤 仁、「日本の洋上風力発電の現状とその課題」、日本風力発電協会、2020年3月6日

〔2〕次世代送電網のイメージ

 日本の洋上風力発電は、エネルギー源(風)が北側(北海道・東北)、あるいは南側(九州)に偏在しているため、洋上風力発電による電力を広域で消費する場合、系統問題を解決しないままでは、「再エネ発電を抑制する」という根本的な問題の解決にならない。

 そこでJWPAの加藤氏は、2050年に向けた、これらを解決するための新しい次世代送電網について提案した〔図8、下記(1)〜(4)〕。

  1. 北海道・東北の風力を首都圏へ送電する場合
     北海道・東北地域がもつ、数千万kWの風力発電のポテンシャルを、需要地である首都圏に送電するには、すでに500kV(一部1,000kV設計)が整備されている東京電力の系統へ直接連系することとし、日本海側は新潟県柏崎市近隣(図8の矢印①)、太平洋側は福島(図8の矢印②)に接続するのがベストである。
  2. 海底ケーブルによる送電
     その際、(1)に示した日本海側と太平洋側のそれぞれに超高圧架空送電線を建設するのは、立地や工期、その他の事情から相当困難と考えられる。そのため、海底ケーブルによる直流送電が選択肢として考えられる。送電線は、工事中の際に問題はあるが海底に敷設してしまえば、漁業問題は解決できる。
  3. 九州の場合は直接需要地へ送電
     九州北西部にも大きな洋上風力の開発ポテンシャルがあるが、九州ではすでに再エネの出力抑制(太陽光発電の停止指令等)が実施されている。したがって、この場合も、需要地へ直接送電(図8の矢印③)する必要が出てくる。
  4. 50〜60Hz間の連系設備をさらに増量
     風力発電が相当量増加した際には、50Hzと60Hzのそれぞれエリア内で十分に消費できない時間帯が発生する可能性もある。そこで、50〜60Hz間の連系〔東京中部間連系設備(FC:Frequency Converter)、図8の矢印④)〕を、現在構築中の210万kWからさらに増量する(増量は90万kWで、合計300万kWとなる)注9

日本の風力発電の現状

 次に、表3と図9を見ながら、日本の風力発電の現状を見てみよう。

表3 2019年までの日本の風力発電の導入実績(2020年1月15日、JWPA調べ)

表3 2019年までの日本の風力発電の導入実績(2020年1月15日、JWPA調べ)

※1 2019年単年導入量は昨年よりわずか多い程度(新規導入量は過去最多)
※2 単年導入実績は伸び悩んでいる状況が続いている。
※3 再エネ海域利用法:正式名「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(2018年11月30日成立、12月7日公布、2019年4月1日施行)、洋上風力発電の導入を促進するため法律
出所 http://log.jwpa.jp/content/0000289708.htmlをもとに編集部で作成

 日本の2019年末までの風力発電の導入実績は、表3と図9に示すように、累積容量で約4GW(設置数は2,414基、発電所数は457カ所)である。

 これは、同じ再エネの太陽光発電(2019年3月末で累積発電量は約50GW)に比べて、累積容量で1/10以下と、大きく普及が遅れている(注:ただし太陽光発電は夜間に発電しないが、風力発電は夜間でも風が吹き発電しているなど、設備利用率注10が異なるので注意)。


▼ 注8
本誌pp.26〜33のクローズアップの記事を参照。

▼ 注9
https://www.occto.or.jp/kouikikeitou/seibikeikaku/tokyochubu/files/FC_20190717.pdf

▼ 注10
設備利用率:発電設備が「フル稼働した場合の発電量」に比べて何%の発電量であるかを示す数値。経済産業省では、太陽光発電が13%、陸上風力発電が20%、洋上風力発電が30%などの指標(注:技術の進歩によって変動する)が示されている。この数値が高いほど、その設備を有効利用している(発電量の比率を示す数値が高い)ことになる。これに対して稼働率は、(発電量には関係なく)風が少ない日も風が多い日も設備が稼働していた時間を%で示したもの。

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