クルマ企業と通信企業の連携
本格的なデジタル化の波があらゆる産業に浸透し、企業に創造的な破壊による変革(Digital Disruption、デジタル・ディスラプション)を迫り、さらに社会的に大きなインパクトを与える、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)注1が現実のものになってきた。
〔1〕自動車産業の大変革
現在、自動車産業は、「100年に一度」の大変革の時代を迎えている。CASE(ケース注2、図1)が台頭し、IoT接続、自動運転、シェアリング、さらに、CO2を排出するガソリンエンジン駆動から、電動モーターで駆動する電動化(EV/PHEV)へとシフトしている。
図1 自動車産業の大変革を加速するCASE革命
出所 https://www.ntt.co.jp/news2020/2003/pdf/200324ba.pdf#zoom=80
このような世界的な流れを背景に、トヨタは、カー・カンパニーからモビリティ注3・カンパニー(すなわち製造業からサービス業)へのシフトを加速させている。自動車へのニーズが「所有」から「利用」へとシフトしており、もはや自動車の売り上げで多大な利益を得ることは難しくなってきている。
すなわち、自動車を所有せずに、使いたいときにだけお金を払って利用する、カーシェアリングなどのサービスが期待されるようになってきたのだ。
〔2〕通信産業の変革
一方、通信産業も、大きなイノベーションが進展している。NTTドコモをはじめ各通信事業者は、2020年3月末から5Gの商用サービスを開始した。5Gサービスは、従来のLTE(4G)に比べて、高速・低遅遅延になるとともに、最初からインターネット(IoT)機能を包含しているため、コンピュータとの整合性が良いサービスだ。例えば、クルマの自動運転制御には最適であり、必須なサービスである。
NTTグループでは、5G技術とともに、グループ全体がもつAIやクラウド、エネルギー事業の資産を活かしながら、最近では2025年までに6,000憶円もの投資を行って、再エネ(分散エネルギー)を加速させる電力サービス事業にも本格参入し、2019年6月に、NTTアノードエナジー注4を設立した。
これはNTTが、既存のモバイルビジネスの限界を見越した新しいビジネス戦略である(本誌2020年1月号「NTTアノードエナジーの事業戦略」を参照)。
両社の資本提携の目的
DXに挑戦する、自動車業界のリーダー「トヨタ」と通信業界のリーダー「NTT」の両社は、2020年3月24日、業務資本提携に合意した(表1)。
表1 トヨタとNTTの業務資本提携の内容
出所 https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/32057066.htmlをもとに編集部で作成
この提携の目的は、スマートシティ注5の実現を目指して、スマートシティビジネスの事業化が実現できるよう、長期的かつ継続的に協業関係を構築することである。
▼ 注1
デジタルトランスフォーメーション(DX):Digital Transformation。直訳すると「デジタル変革」。企業が、クラウドやAI、ビッグデータ解析等のデジタル技術(IT技術)を活用して、企業のビジネスモデルを根本的に変革し、市場において競争上の優位を実現すること。
▼ 注2
CASE:CはConnected(IoT接続)、AはAutonomous(自動運転)、SはShared & Service(共有&サービス)、EはElectric(電動化)を示す。2016年にメルセデス・ベンツが発表したコンセプト。
▼ 注3
モビリティ(Mobility):直訳すると「移動性」。モビリティ・カンパニーとは、例えばカーシェアリングやライドシェアサービスなどの移動手段をサービスとして提供する会社のこと。現在の自動車は初期購入コストが高いところから、若い世代のニーズは、自動車は「所有するもの」から「利用するもの」へと大きく変化している。そこで自動車メーカーは、自動車という「モノを販売する」のではなく、自動車による「移動サービスを提供する」というビジネスモデルに転換し始めている。これはMaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる。MaaSは、自動運転技術も含んだ統合型移動サービスの提供を目指して進化している。
▼ 注5
スマートシティ:先進的技術を活用することによって、都市や地域の機能・サービスを効率化・高度化し、都市がもついろいろな課題を解決するとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する都市・地域を構築すること。