[新動向]

トヨタとNTTが「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築

― DXで日本の産業界再編にダイナミックな動き ―
2020/05/09
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

スマートシティ実現の最新技術の例

〔1〕トヨタグループのブロックチェーン・ラボ

 スマートシティを実現するには、例えば、クルマの個人ユーザー(顧客)からクルマのサプライチェーンも含め、多くの関係者のセキュアで信頼関係のある連携が求められる。

 このためトヨタは、2019年4月、グループ横断のバーチャル組織「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」を立ち上げた注8。その後、同ラボで行われてきた実証実験を通じて、ブロックチェーン技術の有用性の検証や、グループ各社とのグローバルな連携など、その技術の活用に向けた取り組みが続けられている。

(1)改ざん耐性が高いブロックチェーン

 ブロックチェーン技術は、「改ざん耐性が高く」「システムダウンしにくい」などの特性をもっているため、図3上部のように、情報の信頼性を向上させることができる。このため、例えば図3下部のように、「車両」を軸にしてみると、多様な関係者(ステークホルダー)間における生産情報や走行情報、駐車情報などのデータを、安全に共有できる面がある。

図3 ブロックチェーン技術の価値(上)と「車両」を軸にした取り組み(下)のイメージ(トヨタ)

図3 ブロックチェーン技術の価値(上)と「車両」を軸にした取り組み(下)のイメージ(トヨタ)

出所 https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31827409.html?_ga=2.205719635.132151241.1585336261-355272116.1585336261

 トヨタは、ブロックチェーン技術を活用して、パートナー企業との連携をより拡げ、その可能性を追求し、ビジネスへの実装に向けた取り組みを加速している。

(2)ブロックチェーンは「価値のインターネット」

 次に、トヨタグループのブロックチェーン・ラボの役割を簡単に紹介する注9

 トヨタは、インターネットを、物理的な距離の壁を超えて高速通信を可能とした通信革命ととらえる一方で、ブロックチェーンは、インターネット経由の情報の信頼性を保証する「価値のインターネット」と位置付けている。

 具体的にはブロックチェーンを、①通貨送金などの取引情報、②住所や免許証などの個人情報、③車や土地など資産の権利情報、④保険やローンなどの契約情報、などの情報を信頼性高く、やり取りできる技術と位置付けている。

 従来、これらの情報は、契約内容や合意内容を紙に出力して、手書きで署名・捺印して双方で保管するなど、その都度、面倒な手続きが必要であった。デジタルデータ情報の信憑性を証明することが、技術的にも難しかったからだ。

 しかし、ブロックチェーンを使えば、「だれが、いつ、何をしたのか」という情報が、改ざんできない形(改ざん耐性が高い)かつ、時系列的に保存されるため、容易に情報の信憑性を証明できる。

(3)1回の登録で多様なサービスの利用が可能へ

 さらに、ブロックチェーンでは、1社だけが情報を独占する中央集権的な仕組みではなく、すべての関係者(個人や企業)がオープンに利用できる分散型のシステムが可能となる。

 これによって取引のスピードを早め、「価値」としてのデータ連携を世界中で瞬時に実現できるようになる。このため、これまで、例えばクルマの購入やレンタカーを借りる場合などに、その都度行われていた情報登録などが1回で済み、提供されている複数のサービスを容易に利用できる。

 また、①車の購入履歴や販売情報、②レンタカーやカーシェアリングなどサービス情報、③他のモビリティサービス情報などとの連携も容易になる。

 さらにクルマメーカーだけでなく、部品や製品を提供するサプライヤーをはじめ、クルマを販売するディーラーやバリューチェーンを支える多くの関係各社、そして顧客(クルマの利用者)にも大きなイノベーションをもたらすことが可能となる。

〔2〕NTTグループの5つのイネーブラー

 一方、NTTは、スマートシティの実現に向けて、通信分野とエネルギー分野の両面から5つのイネーブラー(実現・促進技術)を中心に、取り組んでいる。

 具体的には、図4左に示す、①IOWN/All-Photonics Network(オールフォトニクスネットワーク:光関連技術)、②IOWN/DTC(デジタルツインコンピューティング)・CF(コグニティブ基盤、図4下の脚注参照)、③5G、④データマネジメント、⑤再エネ直流グリッドの5つである。

 このうち、エネルギー分野では前述したNTTアノードエナジーが、グリーンな再エネの電力発電の事業を行う。また、NTTがこれまで電話交換機用などに供給している直流給電網を活用し、再エネ向けの直流グリッド(直流送配電網)を整備し(図4右)、従来の電力会社の系統システムを補完する仕組みを推進している。

図4 スマートシティ実現に向けた5つのイネーブラーとエネルギーの地産地消(NTT)

図4 スマートシティ実現に向けた5つのイネーブラーとエネルギーの地産地消(NTT)

IOWN(アイオン):Innovative Optical and Wireless Network。スマートな世界を実現する、最先端の光関連技術や情報処理技術を活用した未来のコミュニケーション基盤。低消費電力・高品質・低遅延のオールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング(DTC)、コグニティブファウンデーション(CF)の3つの要素でスマート社会を実現する。
出所 https://www.ntt.co.jp/news2020/2003/pdf/200324bb.pdf#zoom=80

 この再エネ直流グリッドによって、スマートシティにおけるエネルギーの地産地消を促進していく。


▼ 注8
「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」、ブロックチェーン技術の活用検討と外部連携を加速化、2020年03月16日

▼ 注9
トヨタのWebサイトを参照。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...