[クローズアップ]

産業界のDX/Society 5.0を牽引する2020年の半導体市場はどう変化するか

― 新型コロナでプラス成長予想が一転、マイナス成長へ ―
2020/05/09
(土)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

2020年の半導体市場は、7〜8%成長するはずだった。国際的な新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)(注1)の影響によって、サプライチェーンがズタズタにされ、生産できるはずのパソコンやスマホができなくなっている。その需要が崩れるため、半導体も崩れることになりそうだ。しかし、半導体は世界各地域で「Essential Business」(なくてはならないビジネス)(注2)だという認定をもらっており、生産を稼働し続けられる。早く回復できる能力を示すレジリエンシー(Resiliency)は、半導体産業の特権になっている。
ここでは、半導体・コンピュータ・通信の3大技術が密接に連携してメガトレンドをつくって大きな産業を構成し、次世代社会のインフラになってきた最新動向をレポートする。

斜陽産業から成長産業へ

〔1〕長期的には常に成長を続けてきた半導体産業

 半導体産業は、誤解されてきた産業かもしれない。10年ほど前の新聞記事では斜陽産業という言葉が躍っていた。はっきり言えることは、世界の半導体産業は成長産業であり、それは今後も成長が続く。2019年は落ち込んだではないか、という声はある。短期的には浮き沈みを繰り返しながら、長期的には常に成長を続けてきた産業である。それは図1からわかるだろう。

図1 世界の半導体産業成長の推移

図1 世界の半導体産業成長の推移

出所 WSTS(世界半導体市場統計)の数字をもとに筆者が作成

 直近の半導体市場での変化と長期的な変化を見ながら、2020年の半導体市場がどうなるのか、見ていこう。

〔2〕3社が独占する半導体メモリ市場

 2020年の動向を見る前に、2017年から半導体産業はどうなっていたかについて、WSTS注3(世界半導体市場統計)の製品別成長率を表1に示す。この表1中のメモリが最近の状況を物語っている。

表1 WSTS(世界半導体市場統計)が集計した半導体ICの販売額

表1 WSTS(世界半導体市場統計)が集計した半導体ICの販売額

※2020年の値は2019年11月時点での予測値。
出所 WSTS(世界半導体市場統計)

 2017年のメモリ成長率は、61.5%というとんでもなく高い数字を示している。それまでは高くてもせいぜい17%、18%だった。マイナスでも−2.6%から−0.6%程度であり、それほど大きなマイナスではなかった。2018年にはさらに27.4%成長という、これも大きな成長率を示した。需要と供給の関係から、在庫調整が終わると当然のように反動がやってきた。2019年の−33%という数字である。

 これほどまでの浮き沈みを経験したのは、メモリメーカー、特にDRAM注4の3社(韓国サムスン、韓国SKハイニクス、米国マイクロン)が市場を独占し続けていたからだ。常に3社で、DRAMメモリ市場の96%以上を占めている。3社は、顧客からDRAMの生産量を増やせと言われても、NAND注5フラッシュの競争が激しく開発が手一杯だったため、DRAMの生産量をほとんど増やさなかった。このため単価が最大2.5倍にも跳ね上がり、バブルになった。

 特に、サムスンは2017年には、DRAMの営業利益率が60%を超え70%近くに達していた。他の2社も60%近くになっていた。これは粗利益率ではなく、いわば「儲けすぎ」状態を作り上げていたものである。顧客は、DRAMを確保するため二重三重に発注した。このため、需要が落ちた時に在庫がたまりすぎ、2019年にその反動がやってきて、

−33%となった(表1の下段参照)。実はこの大幅にマイナス成長になった2019年でさえ、2016年と比べると、38%増なのである。2020年の半導体市場を予想するのには、メモリの販売動向は欠かせない。

 余談だが、メモリ価格の値上がりでスマートフォン(以下、スマホ)メーカーやコンピュータメーカーは機種を一斉に値上げした。その結果、スマホもパソコンも、サーバも売れなくなった。2019年にメモリは下げ続けたものの、スマホメーカーがすぐには反応しなかったため、2019年はスマホやパソコンもそれほど大きく売れなかった。

組込みシステムの普及が半導体を後押し

〔1〕組込みシステムはコンピュータと同じ構成へ

 なぜ、今メモリなのか。その答えは、組込みシステムが普及したからである。組込みシステムとは、コンピュータと同じ、CPUとメモリ(DRAM、ROMなど)、周辺回路、入出力インタフェース、ストレージ、という仕組みを使いながら、コンピュータではないものを指す(図2)。

図2 組込みシステムの典型例

図2 組込みシステムの典型例

MEMS:Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム。マイクロメートル単位の微小な機械部品やセンサー、電子回路などを組み合わせた複合的な電子部品。メムスと呼ばれる。
出所 筆者作成

 メモリは、増やせば増やすほどコンピュータシステムの性能は上がるため、性能が欲しい場合にはメモリ容量を増やす。スマホだけではなく、テレビや録画機、さらには白物家電などさまざまな家電製品、通信機器、工業製品、クルマ、ロボットなど、電気や電池を使う多くの機器がコンピュータと同じ仕組みを使うようになった。当然、CPUもメモリも電子機器には入っている。

〔2〕組込みシステムが伸びた理由

 コンピュータは、計算するだけではない。制御マシンでもある。コンピュータマシン(コンピュータと同じ仕組みをもつ機器)を作っておけば、ソフトウェアを変えるだけで何にでも化けることができる。その代表的な例が、スマホというモバイルコンピュータにradiko(ラジコ)というアプリ(正確にはアプリケーションソフトウェア)を入れればラジオになる。

 つまりコンピュータと同じハードウエアの共通プラットフォームを作り、その上でさまざまなアプリを作れば、さまざまな機能を追加できる。だから組込みシステムが伸びたのである。もしアプリごとに専用のハードウエアを作るなら、設計から製造まで膨大な時間がかかり市場の要求に間に合わなくなってしまう。


▼ 注1
新型コロナウイルス:正式名称は「SARS-CoV-2」。SARS(重症急性呼吸器症候群)を発症させるウイルスの姉妹種であるところから、ICTV(国際ウイルス分類委員会)が命名した。SARS-CoV-2がもたらす「新型コロナウイルス感染症」は、WHO(世界保健機関)によって「COVID-19」(Corona Virus Disease-19、コビッド-19)と2020年2月に命名された。「-19」はコロナウイルス感染症および感染者が報告された2019年を示す。

▼ 注2
Essential Business:医療機関、航空会社、半導体事業などの必要不可欠な事業のこと。

▼ 注3
World Semiconductor Trade Statistics

▼ 注4
DRAM: Dynamic Random Access Memory。半導体素子を利用した記憶装置の1つ。繰り返し再書き込み動作を行うタイプのもの。主にコンピュータのメインメモリとして用いられる。

▼ 注5
NAND:論理演算の1つで否定論理積。2つの命題のいずれも真のときに偽となり、それ以外のときは真となるもの。

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