[特集]

新型コロナ収束後の経済復興とNDC(CO2削減目標)の引き上げ

― リーマンショック時の財政出動の教訓から検証 ―
2020/06/05
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

新型コロナ収束後の経済復興とリバウンド

〔1〕歴史的な世界の大きな出来事とCO2排出量の関係

 日本は、新型コロナ禍の収束後、経済復興などの課題にどう対処する必要があるだろうか。

 このことは、前述した新NDCに影響を与えるばかりでない。深刻な経済停滞に対して、どのような経済刺激策・経済復興策をとるかは、パリ協定の成否を大きく左右することになる。

 図3の左は、「世界のエネルギー起源のCO2排出量は、これまで世界経済の落ち込みに伴ってCO2排出量も減少するが、すぐにリバウンドして(元に戻って)しまう」ことを示している。図3左の、

図3 世界のエネルギー起源CO2の排出量の推移(左)と2020年の CO2排出量の予測

図3 世界のエネルギー起源CO2の排出量の推移(左)と2020年の CO2排出量の予測

Carbon Brief:カーボンブリーフ社、英国に拠点を置くシンクタンク
出所 田村堅太郎「各国の国別削減目標(NDC)の引き上げ状況と新型コロナウイルスの影響」、IGESプレスセミナー、2020年4月23日

  1. 「黒点線」は過去約60年間(1960年から)の世界の実際のCO2排出量の推移
  2. 「色付きの各直線」は、オイルショックやソ連崩壊などの各イベント(出来事)の発生前5年間のCO2排出の傾向と、それを発生後5年間延長したもの

を示している。

 図3左から、例えば第1次オイルショックの大きなイベントの後は、経済活動の落ち込みとともにCO2排出量も減少するが、すぐにリバウンドしていることが見て取れる。

〔2〕2008年のリーマンショック

 図3右は、新型コロナ後の経済刺激・復興策を実施するうえで、その政策の中身や規模、タイミングなどが非常に重要な役割を果たすことを示したものである。

 具体的な分析資料としては、

  1. 2008年(2008〜2010年頃)のリーマンショック(金融危機)時の現象(図3右の赤い矢印)、
  2. 英国に拠点を置くシンクタンクであるカーボンブリーフ(Carbon Brief)社による2020年のCO2排出量の予測(図3右の黄色い矢印、2020年4月9日時点)、
  3. IEA(国際エネルギー機関)のNDCシナリオ(公表政策シナリオ)および国連のIPCCによる『1.5℃特別報告書』(2018年10月)や『UNEPギャップレポート 2019)』(2019年11月)、

などの国際的な各種報告書やレポートが使用されている(後出の表4参照)。

〔3〕CO2排出量に対するリバウンド対策例

 CO2排出量の具体的なリバウンド対策を見てみると、2008年のリーマンショック(金融危機)時に、一時的にCO2排出量が低減したため、当時、CO2排出量がリバウンドしないように、次のことが実施された(図3右の右上部)。

  1. 米国ではオバマ政権による「グリーンニューディール」
  2. 国連の「UNEP グローバルグリーンニューディール」
  3. 中国ではGDPの10%相当の積極的な経済刺激策(グリーンインフラ投資)

 しかし、結局、2008年の落ち込みの翌年には、CO2排出量が急増したため、相殺されてしまった(図3右の赤い矢印)。

〔4〕今回の新型コロナ禍と過去の教訓

 そこで、過去の教訓に学び、今回の新型コロナ禍の発生以前から今後のCO2削減に備えて、図3右の点線で示すシナリオをもとに、(パリ協定の実現に必要な)CO2排出量の削減目標が議論されてきた(本誌2019年12月号、2020年2月号、3月号を参照)。

 ここでは、前述したカーボンブリーフ社による2020年のCO2排出量予測(4月9日時点)を紹介する(図3右の黄色い矢印)。

 図4は、これまでに世界的に記録された、CO2排出量が大幅に減少(年間最大)した5つの出来事(第2次世界大戦、リーマンショックなど)を示したものである。

 5つの青色棒グラフは、それぞれ500MtCO2弱〜800MtCO2弱の範囲でCO2が減少していることがわかる。

 図4の一番上の灰色の棒グラフは、2020年にCO2排出量が2019年のレベルと比較して、①2%削減した場合、②4%削減した場合、③6%削減した場合の範囲(目盛り)を示している。

 また、図4の茶色の棒グラフは、2020年のコロナ禍によって削減される世界の石油部門、EU、中国、米国、インドのCO2排出量の推定値を示している。ここでのEU、中国、米国、インドについては電力部門の変化のみを示している注10

 図4から、例えば2008〜2009年のリーマンショックのCO2排出量が、−0.4GtCO2

(−400MtCO2)であるのに比べて、今回の新型コロナ禍の下では、5倍以上、すなわち−2GtCO2(2,000MtCO2)以上の減少(削減)になると予測されている。このことから、今回の新型コロナ禍がCO2排出量の減少へ及ぼす影響が、いかに大きいかがわかる。

〔5〕パリ協定を実現する上で必要なCO2排出削減量

 表3に、パリ協定を実現する上で必要なCO2排出削減量の目標について、

  1. パリ協定における2℃の目標達成に必要なCO2排出削減量
  2. パリ協定における1.5℃の目標達成に必要なCO2排出削減量
  3. IPCC『1.5℃特別報告書』(2018)の評価
  4. UNP『排出ギャップレポート』(2019)の評価
  5. IPCC『1.5℃特別報告書』の分析と残余炭素予算(カーボンバジェット)

などを分析しており、重要な資料であるので参考にしていただきたい(詳細は本誌2020年2月号、3月号を参照)。

表3 現行のNDC(国別削減目標)と1.5℃/2℃の目標達成に求められるCO2排出削減量のギャップ

表3 現行のNDC(国別削減目標)と1.5℃/2℃の目標達成に求められるCO2排出削減量のギャップ

出所 田村堅太郎「COP25結果報告:各国の野心引き上げ及び非国家主体の動向」、IGES COP25報告セミナー(2019年12月23日)等をもとに、編集部で作成

 なお、IEAは2020年4月30日、全54ページにわたる最新の報告書『世界エネルギー・レビュー』を発行した。この報告書は、カーボンブリーフ社の分析と若干異なる点はあるが、新型コロナ禍におけるCO2排出量の減少については、ほぼ同じ傾向を示している注11


▼ 注10
https://www.carbonbrief.org/analysis-coronavirus-set-to-cause-largest-ever-annual-fall-in-co2-emissions

▼ 注11
『世界エネルギー・レビュー』4ページ参照

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