[特集]

新型コロナ収束後の経済復興とNDC(CO2削減目標)の引き上げ

― リーマンショック時の財政出動の教訓から検証 ―
2020/06/05
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

今後の展開:コロナ収束後の経済復興とNDCの連携

〔1〕リーマンショック時の財政出動

 ここまで、世界的な新型コロナ・パンデミックを背景に、歴史的な教訓を掲げながら、パリ協定の実現に向けて、①新型コロナ禍後の経済回復(経済刺激策・経済復興)と、②脱炭素化を目指すNDCの引き上げの課題、をどう連携させて発展させるべきかを見てきた。また、これらに加えて、歴史的教訓の具体例として2008年のリーマンショックの財政出動の状況を示した。

 図5左は、リーマンショックに対する全体の財政出動と脱炭素化対策を行った「グリーン」部分の財政出動の比率を示したものであるが、世界各国の経済復興政策全体に対して、米国や日本、ドイツのグリーン(脱炭素化)部分は小さく、かなり限定的であったことがわかる。

図5 世界金融危機(2008年のリーマンショック)における財政出動の状況

図5 世界金融危機(2008年のリーマンショック)における財政出動の状況

(原典)HSBC Holdings plc「Annual Report and Accounts 2009」
出所 田村堅太郎「各国の国別削減目標(NDC)の引き上げ状況と新型コロナウイルスの影響」、IGESプレスセミナー、2020年4月23日

 具体的には図5右に示すように、リーマンショックに対する全体の財政出動に占める「グリーン」の部分は15.6%であった。この「グリーン」部分の内訳は、鉄道27%、電力網21%、水・廃棄物19%などであった(図5右の円グラフ参照)。

 図5右に示した数値(%)からわかるように、「グリーン」の部分の投資が少なかったため、リバウンドを止められず、その直後にCO2排出量は急増してしまった。

 しかし今日では、図5右下および表4に示すように、欧州グリーンディールや世界銀行のガイドライン「A sustainability checklist for policymakers」、IEAの提言などをはじめ、いくつかの科学的な「脱炭素化への改革」の処方箋はすでに存在しており、世界的な協調によって、リバウンドを止める可能性は高まっている。

表4 各種報告書・レポート(処方箋)の概要

表4 各種報告書・レポート(処方箋)の概要

IEA:International Energy Agency、国際エネルギー機関。1974年設立
IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change、国連の気候変動に関する政府間パネル。設立:世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織
UNEP:United Nation Environment Programme、国連環境計画。1972年設立
出所 各種資料をもとに編集部で作成

〔2〕野心の引上げを誘発する

 新型コロナ収束後の経済刺激策・経済復興策を実施するうえで、国際的な協調が期待されているが、一方、前述した「欧州グリーンディール」や米国バイデン大統領候補が掲げている気候変動対策における「国境調整措置」(今月号の特集1を参照)なども、その他の国々の野心引き上げを誘発する可能性があり、期待されている。ただし、これらの施策は、パリ協定と補完し合いながら、貿易体制と整合性をとった形で機能させることが重要である。

 IGESの田村氏は、「各国のCO2排出量(NDC)の引上げを、パリ協定の実現可能レベルにまでもっていくには、現在置かれている状況は、人類にとって絶好のチャンスである。リバウンドさせずに、経済復興とCO2排出量の削減を両立できるかどうかが、今後、注目すべき点である。」と締めくくった。

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