旧一般電力事業者等の石炭火力の発電電力量と発電設備
ここで、日本全国で稼働している旧一般電力事業者(10者)等の石炭火力発電の電力量(kWh)と発電設備(kW)の状況を見てみよう。
〔1〕発電電力量(kWh)と発電設備(kW)
表2は、旧一般電気事業者および電源開発における「非効率な石炭火力の発電電力量(kWh)の割合」(2019年度の実績値)を示しており、例えば、沖縄電力が55.1%、北海道電力が38.8%、関西電力が0%と、電力会社によって、かなりばらついた稼働状況となっている注7。
表2 旧一般電気事業者(10者)および電源開発における非効率な石炭火力の発電電力量(kWh)の割合
※石炭火力(非効率・全体)および総発電電力量は2019年度実績値。
出所 第26回電力・ガス基本政策小委員会、資料3「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」、2020年7月13日
表3に、非効率な石炭火力の設備容量(万kW)の割合を示すが、最も多いのは沖縄電力の34.8%となっている。
表3 旧一般電力事業者(10者)および電源開発における非効率な石炭火力の発電設備容量(万kW)の割合
※石炭火力発電の設備容量(非効率含む)は2020年6月末時点のデータ。
※総設備容量は、最新の電力調査統計(2019年11月版、2020年2月25日公表)による。
出所 第26回電力・ガス基本政策小委員会、資料3「非効率石炭のフェードアウト及び再エネの主力電源化に向けた送電線利用ルールの見直しの検討について」、2020年7月13日
〔2〕CO2排出量の多い石炭火力発電とLNGの比較
一方、石炭火力発電はCO2排出量が多いといわれるが、脱炭素化の視点から、石炭火力と、同じ化石燃料である石油火力・LNG火力について比較してみよう。
図6左側4つの棒グラフは、前出の図5に示した、
①非効率な石炭火力〔従来型(SUB-C、SC)〕
②高効率な石炭火力(USC、IGCC、IGFC)
である。
図6 燃料種別から見た火力発電のCO2排出原単位の比較
CO2排出原単位:CO2排出係数とも呼ぶ。単位:g-CO2/kWh、kg-CO2/kWh。電力会社が一定の電力を作り出す際にどれだけの二酸化炭素(CO2)を排出したかを示す単位。「実CO2排出量(kg-CO2)÷販売電力量(kWh)」で算出される
出所 自然エネルギー財団、「アジアで進む脱石炭火力の動き」、石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会、第1回〔資料3−4〕2020年4月1日
石炭火力のkWh当たりのCO2排出原単位(CO2排出量の指標)注8は、図6左から順に、
- 従来型(SUB-C、SC)に比べてUSCは3〜8%減程度
- 最新型のIGCCでは16%減
- IGFCでは32%減
となっており、技術革新によってCO2排出量が減少し、改善されてきている。
しかし、これらを、例えば右端の最新型のガス火力であるLNG火力(GTCC)と比べると、石炭火力の方式のうち、
①USC方式注9は約2.5倍
②IGCC方式は約2.3倍
③最新鋭のIGFC方式でも約1.8倍
のCO2排出量となっている。全体的に見ると、石炭火力はLNG(ガス)火力に比べて、2倍程度のCO2排出量となる。
このように、脱炭素社会を実現するうえで、いくら石炭火力技術を改良しても、CO2排出量を減少させるには限界がきていることがわかる。
ここまで、日本の石炭火力発電の全体像を見てきたが、政府が今回発表した石炭火力の政策は、非効率石炭火力のフェードアウトを目指しながら、一方で、「脱炭素移行政策誘導型インフラ輸出支援」を推進していくことを基本方針とするなど、パリ協定の実現を目指すうえで矛盾する内容ともなっている。
▼ 注7
「非効率な石炭火力の設備容量(kW)の割合」(2020年6月末時点のデータ)については、11ページを参照。
▼ 注8
原単位(Intensity):一定量の生産物をつくるために使用する、または排出するモノや時間などの量のこと。例えば、一定量の生産物をつくるのに必要とするエネルギーのことを「エネルギー原単位」、一定量の生産物をつくる過程で排出するCO2排出量を「CO2排出原単位」と呼ぶ。原単位の対義語は「総量」(Absolute Volume)。総量は一定量ではなく、ある主体(企業など)が使用する、または排出するモノや時間の全体量のことを指す。
出所 Sustainable Japan(株式会社ニューラル)のDictionary
▼ 注9
第5次エネルギー基本計画(2018年)で、世界最新鋭と位置付けられている石炭火力発電方式の1つ(前出の図5を参照)。