[特集]

石炭火力発電所フェードアウト方針と世界の潮流

― 日本はパリ協定実現に向けて石炭火力を廃止できるのか?! ―
2020/08/06
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

石炭火力発電のフェードアウトの展開シナリオ

 次に、石炭火力発電に注目して、記者会見で提示された、非効率な石炭火力のフェードアウト(休廃止)の展開シナリオを見てみよう。

〔1〕日本の全発電量に占める石炭火力は32%

 図3は、現在の日本の全発電量に石炭火力発電量合計32%(前出の図2の2018年度参照)の内訳を示したものである。後述するように、石炭火力発電の歴史は古く注5、これまで発電効率を高めるために、順次、技術的改良が重ねられ、多様な発電技術が開発され、導入されてきた。

 図3は、2018年度の石炭火力発電量(総発電量:約3,300億kWh)をベース注6に分析した円グラフである。

〔2〕石炭火力32%の内訳:非効率と高効率

 図3に示すように、全発電量に占める石炭火力発電の比率は32%(発電量:約3,300kWh)であるが、その内訳を分類すると次のようになる。

  1. 「非効率」タイプ:発電効率が40%程度以下の石炭火力(SUB-C型、SC型)は、「非効率」と位置付けられ、全発電量の16%(計114基)を占める。
  2. 「高効率」タイプ:発電効率が40%を超える石炭火力(USG型、IGCC型)は「高効率」と位置付けられ、全発電量の13%(計26基)を占める。
  3. 自家発電用(自家消費)に稼働している石炭火力発電は全発電量の3%を占める。

〔3〕高効率な石炭火力による発電比率を20%へ

 以上の分析を前提に、今後、現在建設中の最新鋭(さらに高効率)の石炭火力発電の稼働が見込まれている。これらを勘案して、2030年のエネルギーミックス(第5次エネルギー基本計画)を達成するには、CO2排出量が多く「非効率」な石炭火力による発電を「可能な限りゼロ」に近づけていく、すなわちフェードアウト(休廃止)させていく必要がある。

 そこで、次のような措置を検討し「高効率」石炭火力発電の比率を高めていく。

  1. 非効率な石炭火力発電〔SUB-C、SC(従来型ともいわれる):計114基。小規模な出力10万〜20万kW程度が多い。後出の表6参照〕による発電を削減するため、新たな措置およびルールを検討する。
  2. すでに稼働している高効率な石炭火力発電(USC、IGCC:計26基。大規模な出力60万〜100万kW程度が多い)に続いて、建設中の最新鋭の石炭火力発電が運転を開始する(後出の表7参照)。このため、高効率な石炭火力発電による発電比率は、現在の13%から約20%に向上する可能性がある。さらに高効率化を目指す次世代のIGFC方式も開発されている。

 図4に、代表的なUSC(超々臨界圧微粉炭火力発電)方式による石炭火力発電所の基本的な発電の仕組みを示す。

図4 石炭火力発電所の仕組みの例:USC(超々臨界圧微粉炭火力発電)の場合

図4 石炭火力発電所の仕組みの例:USC(超々臨界圧微粉炭火力発電)の場合

USCの特徴:USCは信頼性が高く、確立された技術(技術確立時期:1995年~)として、国内の石炭火力発電所の約50%(設備容量ベース)、約1,960万kW(大型火力20基分相当)に採用されている。CO2排出原単位は820g-CO2/kWh。
CO2排出原単位: CO2排出係数とも呼ばれる。単位:g-CO2/kWh、kg-CO2/kWh。電力会社が一定の電力を作り出す際にどれだけのCO2を排出したかを示す単位。「実CO2排出量÷販売電力量」で算出される。
出所 環境省、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」の結果について」、検討結果「石炭火力発電輸出ファクト集2020」(2020年5月)、72ページ

 また図5には、石炭火力発電の5種類の発電方式(SUB-C、SC、 USC、IGCC、IGFC)の構造や発電効率などの概要を示す。

図5 石炭火力発電の種類(注:SUB-CとSCは、まとめて「従来型」といわれる場合がある)

図5 石炭火力発電の種類(注:SUB-CとSCは、まとめて「従来型」といわれる場合がある)

SUB-C:Sub Critical(亜臨界圧発電)  SC:Super Critical(超臨界圧発電)  USC:Ultra Super Critical、(超々臨界圧発電)
IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle(石炭ガス化複合発電)
IGFC:Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle(石炭ガス化燃料電池複合発電)
出所 資源エネルギー庁、「非効率石炭火力のフェードアウトについて」、2020年7月3日の梶山経済産業大臣の閣議後記者会見のブリーフィング配布資料、および以下のサイトを参考、https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/jisedai_karyoku/pdf/004_02_00.pdf


▼ 注5
日本最初の電力会社である東京電燈〔東京電力の前身。1883年(明治16年)に設立〕は、約130年前の1887年(明治20年)に、日本初の一般供給用発電所である第二電灯局(石炭火力発電所:25kW)を、東京府日本橋区南茅場町(現:東京都中央区茅場町)に建設した。『エネルギー白書』2018年の第1部 9ページを参照)

▼ 注6
前出の図1(2018年度まで)下段の一覧を参照。

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