[特集]

石炭火力発電所フェードアウト方針と世界の潮流

― 日本はパリ協定実現に向けて石炭火力を廃止できるのか?! ―
2020/08/06
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

先進諸国は脱石炭火力へ舵を切る

 ここまで、石炭火力発電に関して日本の最新動向を見てきた。以降では、パリ協定(脱炭素化)の実現に向けて、世界各国がエネルギー転換を図りながら、石炭火力発電の廃止(フェーズアウト)に向けてどのように取り組んでいるかを見ていこう。

〔1〕石炭火力の廃止が世界の流れ

 現在、脱炭素化を目指す先進諸国では、表4に示すように、石炭火力の廃止や縮小への動きが活発化している。

表4 石炭火力の廃止・縮小に向かう先進諸国の動向

表4 石炭火力の廃止・縮小に向かう先進諸国の動向

出典:各国公表資料、海外電力調査会『海外諸国の電気事業』
出所 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/026_03_00.pdf

 例えば、直近では2020年7月3日、ドイツ連邦議会は、ドイツで稼働しているすべての石炭火力発電所を2038年までに廃止(全廃)する法案を可決した。

 ドイツでは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故を受けて、2022年までにすべての原子力発電所を廃止することも決定しており、そのうえで2050年には、再エネの比率を80%まで引き上げる野心的な目標を設定している。

 この背景には、パリ協定の実現やエネルギーの安全保障とともに、化石燃料による発電が「一番安く、コスト競争力があった時代」は終わり、「クリーンな再エネ(太陽光や風力)が最も安い時代」へ移行し始めるなど、大きなパラダイムシフトを敏感に受け止めて、政策に反映していることを挙げるがことができる。

〔2〕2050年に非化石全体が約70%へ

 このような国際動向を反映して、低炭素経済の移行に伴う国際的な市場調査や分析を行うブルームバーグ NEF(BNEF)社は、図7に示すように、2050年における世界の電源構成は、風力・太陽光(合計48%)を含めて、再エネが62%(非化石全体が約70%)、化石燃料が31%の構成になると分析している。ガス火力は一定のポジションを得るものの、石炭火力は大幅に減少していくと予測している。

〔3〕2050年:石炭火力は29%から5%へと大幅に減少

 また、図8に示すように、世界の電源について、「2018年までの全導入容量(6,957GW)」と「2050年までの全導入容量(1万9,021GW)」を比較すると、2050年には、次のことが予測されている。

  1. 太陽光発電は40%(小規模11%+メガソーラー29%)、風力発電は16%+α%(陸上16%+洋上α%)と大幅に増加する反面で、
  2. 石炭火力発電は29%から5%へと大幅に減少、ガスは24%から17%へ、水力は計17%から8%へ減少する。

図8 グローバル:新設容量の77%は再生可能エネルギー

図8 グローバル:新設容量の77%は再生可能エネルギー

※Peakerガス火力:風力等の再エネ発電が停止した場合や、電力需要が急増(ピークが急増)した場合に対応するために設置される、バックアップ用のガス発電設備
出所 黒﨑 美穂、「世界のエネルギー市場の転換と石炭」、石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会、第1回 資料4-1(2020年4月1日)を編集部で日本語化・加筆

〔4〕IEA:太陽光・風力は急増、石炭は急落と予測

 図9は、国際エネルギー機関であるIEA(International Energy Agency)が、毎年発行している「World Energy Outlook 2019」(世界エネルギーの展望2019)による、2040年までの世界の発電容量(シナリオ・電源別)示したものである。

図9 IEAによる2040年までの世界の発電容量(シナリオ・電源別)

図9 IEAによる2040年までの世界の発電容量(シナリオ・電源別)

公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario):各国政府の現在の政策の方向性や目標を考慮した現状のシナリオ
持続可能な開発シナリオ(Sustainable Development Scenario):持続可能な開発目標を完全に達成するための道筋を示したシナリオ。「パリ協定」(2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力)の目標や脱炭素化を達成するためシナリオ
出所 環境省、「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」の結果について、検討結果:分析レポートとファクト集、「石炭火力発電輸出ファクト集2020」、2020年5月

 石炭火力の容量(GW)は、公表政策シナリオ(現状維持)では現状からほぼ維持されているが、各国がパリ協定の実現に向けて推進している持続可能な発展シナリオ(2℃目標達成)では約半減する(2018年:2,000GW超⇒2040年:1,000GW超)との分析がなされている。

 これに比べて、太陽光発電は5,000GWへ、風力発電は3,000GWへと、急速に普及する傾向が見てとれる。

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