銀行も石炭火力発電の金融支援を停止へ
梶山経済産業省大臣の記者会見を契機として、日本および先進諸国の石炭火力発電所の最新動向を見てきた。
現在、猛威をふるっている新型コロナ禍(COVID-19)も、深刻な地球温暖化に伴う異常気象に起因しているともいわれ、世界各国ではCO2排出量削減に向けて、CO2排出量が多い石炭火力発電は、脱炭素化の視点からいっそう厳しい規制が行われ、廃止の方針が相次いでいる(前出の表4参照)。
さらに、金融面からも、例えば、欧州復興開発銀行(EBRD)が石炭火力発電への金融支援を2018年12月に禁止したことや、国際的な金融機関であるアフリカの諸国を支援するアフリカ開発銀行が、石炭火力発電からの撤退を2019年9月に発表するなど、世界の開発銀行は、石炭火力発電への支援方針を厳格化している。
また、日本の三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループなど3大メガバンクは、新設の石炭火力発電所へのファイナンスは原則行わないことを発表した注18。
脱炭素化に向けて国際的に活躍する日本企業(非国家アクター)
世界的な石炭火力発電の撤廃の動きと連動して、日本でも、脱炭素経営に向けた取り組みが活発化してきた。
図10は、パリ協定(脱炭素化)の実現に向けて、活発な活動を展開し注目されるTCFD、SBT、RE100(表5参照)について、世界の全体の取り組みと、日本企業の活躍の状況を示したものである。
図10 脱炭素経営に向けた取り組みの広がり(2020年5月11日時点)
<TCFD、SBT、RE100のすべてに取り組んでいる日本企業一覧>
【建設業】積水ハウス/大東建託/大和ハウス工業/戸田建設/LIXILグループ/住友林業
【電気機器】コニカミノルタ/ソニー/パナソニック/富士通/富士フィルムホールディングス/リコー
【情報・通信業】野村総合研究所、【小売】アスクル/イオン/丸井グループ、【不動産】三菱地所
出所 環境省「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」の結果について」、検討結果「石炭火力発電輸出ファクト集2020」2020年5月
表5 図10に登場する用語の解説
※1IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、国連の気候変動に関する政府間パネル。人為起源による気候変化などを科学的な見地等から評価を行うことを目的に、1988 年に設立。2018年10月8日には『1.5°C特別報告書』(Global Warming of 1.5 ºC)を発表した。
※2TCG :The Climate Group、温室効果ガス(CO2)のネットゼロ排出の、持続可能な社会と経済を目指す英国に本部を置く国際NPO。
※3CDP:炭素情報開示プロジェクト、ESG評価機関。本部は英国。ESGはEnvironment(環境)、Social(社会問題)、Governance(ガバナンス:企業統治)の略
出所 各組織のサイトおよび本誌2020年2月号25ページ等を参照して編集部で作成
図10からわかるように、日本企業は、
- TCFD(気候変動に関する財務情報開示)の賛同機関数が世界1位、
- SBT(CO2排出量の削減目標を立てること)の認定企業数が第2位、
- RE100(企業の事業運営を100%再エネで行う)への加盟企業数が第3位
と、他国に比べてリードし、国際的に大きく活躍している。
このように、政府の取り組みの遅れを乗り越えて、非国家アクター(Non-State Actors、政府以外の組織)である日本の企業群が意欲的に取り組んで姿が見てとれる。こうしなければ、日本企業が国際的なサプライチェーンなどから外され、グローバルなビジネス展開ができなくなってしまうからだ。
世界中で、気候温暖化対策に対応することがビジネスの中心になり、基本になっていることを受け止め、COVID-19の影響で2021年に延期となったCOP26(パリ協定の実現)を見据えて、日本政府が来たる2021年に予定している「第6次エネルギー基本計画」において、石炭火力問題についても、フェーズアウトに向けて明確な姿勢を打ち出すことが期待されている。
▼ 注18
「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」の結果について、○検討結果 石炭火力発電輸出ファクト集2020