[特集]

石炭火力発電所フェードアウト方針と世界の潮流

― 日本はパリ協定実現に向けて石炭火力を廃止できるのか?! ―
2020/08/06
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

非効率石炭火力の「休廃止」と「輸出戦略」に対するコメント

 このような政府の方針について、地球温暖化対策やエネルギー問題について先進的な活動を展開している(日本の)団体は、どのような見解を示しているのだろうか。

 ここでは、主にIGES(地球環境戦略研究機関)注10と自然エネルギー財団注11のコメントを紹介する。

【コメント1】

IGES:歓迎するがパリ協定実現には不十分

 IGESは、2020年7月7日、『「非効率石炭火力の段階的廃止」方針に対するコメント ―本方針はパリ協定とは整合しないことが明らかに―』注12を発表した。

 非効率石炭火力の休廃止を具体的に促すことは歓迎される。しかし、今回の方針は、大型で高効率な石炭火力設備へのリプレースを進めるという従来のエネルギー政策の抜本的な転換を意味するものではなく、パリ協定の長期気温目標に向けても不十分な内容である。

 休廃止が見込まれる設備は小規模なものが多い一方で、建設中・計画中の大規模石炭火力が稼働することで、2030年時点では50基、3,328万kW程度の石炭火力が残ると推計される。

 (また、2019年6月に発表された)『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』注13に明記された、パリ協定の長期目標と整合的な火力発電からのCO2排出削減や、非効率石炭火力のフェーズアウトに向けた取り組みとしては不十分である。非効率石炭火力の廃止を促すだけではなく、発電部門全体でのCO2排出ネットゼロ化を目指した措置が必要となる。

【コメント2】

自然エネルギー財団:2つのコメント

 自然エネルギー財団は、石炭火力のフェーズアウトおよび石炭火力輸出について、次のような2つのコメント(要旨)を発表した。

〔その1〕石炭火力の完全なフェーズアウトを注14

 梶山経済産業大臣は、本日(2020年7月3日)の記者会見で低効率な石炭火力発電所の休廃止を進めると表明した。現行のエネルギー基本計画(2018年策定)の中でも、既に「非効率な石炭火力発電のフェードアウトに向けて取り組んでいく」という方針が盛り込まれている。今回の発表はこの既定方針を具体化したものであり、新たな方向性を提起したものではない。

 具体的な方策は、2020年7月中にも検討を開始し年内を目途に具体策をまとめるとしている注15が、各種の報道を踏まえれば、今回の経済産業省の方針には、以下のような3つの懸念がある。

  1. 「100基休廃止」でも、2030年時点で3,000万kWの石炭火力を利用する、ことになること
  2. CO2排出がほとんど変わらない高効率石炭火力推進路線を維持する、ことになること
  3. 26%維持注16のため、更に長期の排出ロックイン(電力部門からのCO2排出量が長期的に継続し、固定化する状態)の危険性があること

〔その2〕石炭火力輸出の完全な中止と自然エネルギー支援への転換を

 政府は、本日(2020年7月9日)、「インフラ海外展開に関する新戦略の骨子」を公表した。この中で、今後はCO2排出削減に資する選択肢の提案や脱炭素化政策の策定支援を行うことを基本方針とし、いくつかの留保をつけつつ、今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、「政府としての支援を行わないことを原則とする」と定めた。

 他方、今回の方針では、進行中プロジェクトの支援が継続されるとともに、「高効率」と位置付ける新規の石炭火力輸出の支援も可能とする道を残している。

 今回の方針は、国内外からの厳しい批判を受けとめ、今後のインフラ輸出は自然エネルギー(再エネ)発電などを重視していくことを示したものではあるが、石炭火力輸出を推進してきた従来の政策を完全に転換したものとは言えない注17


▼ 注10
IGES(アイジェス):Institute for Global Environmental Strategies、公益財団法人 地球環境戦略研究機関。設立は1998年3月31日。本部所在地:神奈川県三浦郡葉山町。
新たな地球文明のパラダイムの構築を目指し、地球規模の持続可能な開発の実現を図ることを目的とし、日本政府のイニシアティブと神奈川県の支援によって設立された。

▼ 注11
公益財団法人 自然エネルギー財団:Renewable Energy Institute。設立は2011年8月12日。本部所在地:東京都港区西新橋。
自然エネルギー(再エネ)を基盤とする社会の構築を目指して、2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島第一原子力発電所の事故を契機に、孫 正義 氏(ソフトバンクグループ代表)によって設立された。

▼ 注12
主要メッセージ
具体的な数値的根拠も含めたコメンタリー全文

▼ 注13
「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定について、添付資料1、2019年6月11日

▼ 注14
全文は以下を参照。
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20200703.php

▼ 注15
2020年7月13日の第26回電力・ガス基本政策小委員会から検討が開始

▼ 注16
前出の図2の日本の電源構成(エネルギーミックス)に示す石炭26%、を参照。

▼ 注17
全文は以下を参照。
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20200709.php

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