IT分野:米国の「マイクロソフト」と「グーグル」の衝撃
〔1〕マイクロソフトはカーボンネガティブの会社へ
表3に示すように、今年の年頭、2020年1月16日に、ITの先進企業であるマイクロソフトは、「2030年までにカーボンネガティブの会社になる」注5と発表し、世界を驚かせた。
表3 脱炭素化へ取り組みが進む企業の主な例
出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020(2020年10月13日)をもとに編集部で作成
「普通の企業は、CO2排出量をゼロにすることすら非常に難しいのに、マイクロソフトは、2025年までに再エネ100%(RE100%)へ、さらに2030年にはCO2排出量をゼロにするどころか、マイナス(ネガティブ)にする。しかも、1975年の会社創業以来、過去に出してきたCO2排出分まですべて帳消しにして、ゼロにすると発表したのです」(末吉氏)。
〔2〕衝撃的なグーグルの発表「創業以来のCO2排出量もゼロを達成!」
2020年9月、今度はグーグルが、同社が1998年の創業からカーボンニュートラルを達成した2007年までに排出したCO2排出量の遺産を、全てオフセット(相殺)した(表3)、と発表した注6。
グーグルは、過去のCO2排出量分までゼロにしたのだ。
〔3〕ビジネスそのものの基盤が壊れてきた!
なぜ、マイクロシフトやグーグルなどの大企業が、CO2排出量をゼロにする取り組みを進めているのだろうか。資金があるからなのか。
「私は、もう、このような脱炭素化への取り組みをしていかないと、ビジネスそのものの基盤が壊れ、今どんなに優秀なビジネスを展開していても、間もなく駄目になってしまうという、ものすごい危機感があるのだろうと思います。そして、むしろこのような取り組みをすることが当然であり、しなければいけないという、社会的な企業的文化が生まれ始めているんじゃないでしょうか。私は、その変化に大きな驚きを感じます」(末吉氏)。
自社のCO2排出量をゼロにするのは、自社だけではできない。製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費に至るまで、多くの企業が連携する「サプライチェーン」という一連の流れがある。この流れの中で、他の企業がCO2をどんどん排出しているとき、自社だけがCO2排出量を減らしているのは、「グリーンウォッシュ(Greenwashing)」注7ともいえる。
「グリーンウォッシュがないように、“CO2ネットゼロ”をみんなで目指そうという大きい網が、パリ協定の実現であり、脱炭素化であり、ビジネス全体にかけられているのです」と、末吉氏は述べた。
〔4〕アップルはサプライチェーン丸ごとネットゼロへ
さらに続けて、末吉氏は、「ですから、どんな企業であってもCO2ネットゼロの網から逃げられない。そういった時代がもう始まったのです。これらを理解している、アップルやUnilever(ユニリーバ)などは、製造のサプライチェーン全部にわたってCO2排出ゼロを目指しています(表3)。こうした企業が出てくれば、この網が被せられる中には、当然、日本企業も含まれます。もし日本企業がCO2ネットゼロを実現できなければ、アップルやUnileverとはビジネスができない。このような新しい商業ルールが生まれ始めているのです」と述べた。
▼ 注5
「Microsoft will be carbon negative by 2030」、Jan 16, 2020
▼ 注6
「Our third decade of climate action: Realizing a carbon-free future 」、Sep 14, 2020
▼ 注7
グリーンウォッシュ:Greenwashing。実体はそうではないのに、あたかも環境(エコ)に配慮しているかのように見せかけて、消費者に誤解を与えるようなこと。エコなイメージを思わせる「グリーン(Green)」と、見せかけという意味の「ホワイトウォッシュ(Whitewash)」を組み合わせた造語。