金融分野:金融の保守本流が動き始めた
〔1〕商業銀行にもPRBが
このような脱炭素化への動きは、資本主義の総本山である金融分野にも、大きな影響を与えている。
「私がもともと働いておりました金融でも、ついに保守本流が動き始めました。例えば、私が今も関わっていますUNEP Finance Initiative〔国連環境計画(UNEP)・金融イニシアティブ〕でも、1年前の2019年9月の国連総会の折に、責任銀行原則(PRB:Principles for Responsible Banking)を打ち立てました。これまで投資と保険にあった責任投資原則が、ようやく商業銀行にも生まれました」と末吉氏。
このPRBの一番の特徴は、図1の原則1にあるように、これから銀行の融資事業は、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とパリ協定の実現に沿うようなものに限るといい始めたことに等しい。
図1 サステナブル金融の3本柱が整う
PRI:Principles for Responsible Investment
PSI:Principles for Sustainable Insurance
PRB: Principles for Responsible Banking
出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020、2020年10月13日
「逆にいうと、SDGsなんてどうでもいい、パリ協定なんて関係ない、という会社には、商業銀行は責任がある銀行としてビジネスの対象にできない、ということを宣言したことになるのです」(末吉氏)。
〔2〕動き出した米国の「BlackRock」
PRBを根本的なところから掘り下げて明確に表明したのが、米国のグローバルな資産運用会社「BlackRock」(ブラックロック、1988年設立)注8である。BlackRockは世界最大の7兆ドル(約730兆円)注9の運用機関であり、日本のGDP(約500兆円)よりも、はるかに大きい金額を運用している(図2)。
図2 金融の根本的再構築へ
出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020、2020年10月13日
「BlackRockのCEOであるラリー・フィンク(Larry Fink)氏が、今年の年頭(2020年1月)の手紙の中で、『A Fundamental Reshaping of Finance、金融の根本的な再構築』が始まったと書いています。したがって、当然ながら資金の流れも変わりますが、このような受け止め方を、日本の金融界はしているでしょうか」と、末吉氏は問いかけた。
続けて、「私自身、米国ニューヨークで長年金融に携わっていましたので、保守本流であるMorgan Stanley(モルガン・スタンレー)とも仕事をしましたが、ついにそのモルガン・スタンレーも、2020年8月に、“持続可能性を目指すベンチャーを支援”(図3)といい始めたのです。世界の金融の中心が、明らかに重点とするターゲットを変え始めたのです」と末吉氏は語った。
図3 持続可能性を目指すベンチャーを支援
出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020、2020年10月13日
▼ 注8
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us
▼ 注9
BlackRock:世界約30カ国、70都市に展開。その資産運用は、2020年9月末時点で、7兆ドルを超え、7.81兆米ドル(約824兆円)となっている(1ドル=105.53円で換算)